3月28日に71歳で亡くなった、坂本龍一さんのドキュメンタリー映画「Ryuichi Sakamoto-Opus」(空音央監督)が24日夜、都内で開催中の東京国際映画祭で上映された。上映前に、前日23日にオープニング作品として上映された「PERFECT DAYS」(ヴィム・ヴェンダース監督、12月22日公開)主演の役所広司(67)がトークを行った。

役所は登壇早々「坂本龍一さんをお話しできるほど、親しくさせてもらってるわけではないんですけど、一方的に大ファンで、尊敬していて…恩師だと思っています」と、坂本さんとの関係性を説明した。坂本さんが挿入曲「美貌の青空」を提供した2007年(平19)の米映画「バベル」(アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督)と、坂本さんが映画音楽を担当した日本、カナダ、フランス、イタリア、英国合作映画「シルク」(フランソワ・ジラール監督)に出演しているが、知り合ったのはその前だという。

役所は「それ(出演)以前に、米ニューヨークで坂本さんの仕事場の、前のイタリアンレストランで食事をおごってもらったのが出会いです」と明かした。出会って以降は「映画音楽のことで教えを請うて、いろいろなアイデアをいただいたりしたこともあります。それを機会に、坂本龍一さんの人柄と音楽家としての才能にひかれて、連絡させてもらっていました」という。

役所は、坂本さんとのエピソードを聞かれると「お会いした時、とてもユーモアのある人で直接、面と向かってお話しすると、なかなか緊張して話が出来ないんですけど、メールで聞くと丁寧にお答えいただいて」と、交流の一端を明かした。そして「間が悪い男で、いつも坂本さんが病気で具合が悪い時、よくメールを送って。しばらく返信が来ないんですけど『やっと、体調が良くなったから』と、また丁寧に返事をくださって。ご自分の体が、本当に大変な時に『コロナのパンデミックだから気を付けてね』と気遣いもしてくださる方で」と、体調が悪い時にメールをしてしまっても、坂本さんが丁寧に返信してくれたと感謝した。

「Ryuichi Sakamoto-Opus」は、坂本さんがこの世を去る前に残した最後のピアノソロコンサートでピアノを演奏する姿をモノクローム映像で捉えたコンサートドキュメンタリー。9月にカンヌと並ぶ世界3大映画祭の1つ、ベネチア映画祭で世界初上映された。役所も作品を鑑賞しているが、その印象を聞かれると、自身が「PERFECT DAYS」で男優賞を受賞した、5月のカンヌ映画祭(フランス)でのエピソードを明かした。

「まず、本当に…ちょうどカンヌ映画祭で、授賞式に行くレッドカーペットで、僕らは、ずいぶん待たされたんですよ。その時『戦場のメリークリスマス』が突然かかって、その時、ゾクッとした。坂本さん、いるなぁと感じましたね」

その上で、過去、坂本さんと対談した当時を振り返り「対談した時、NHKのスタジオで坂本さんのピアノの演奏を聴いたこともある。その時の坂本さんと、この映画の坂本さんは本当に…すごく違いを感じます」と評した。「昔、まだお元気な頃の坂本さんは、ピアノに向かうと、すごい気迫を感じました。その頃は、体力と筋力もあったんですけど」と続けた。

一方で「今日、皆さんが見る映画の中の坂本さんは、筋力が、もうないんですけども」と映画の中の坂本さんが相当、弱っていると指摘。その上で「気と言うんですかね。1音1音、丁寧に心を込めて演奏される坂本さんの顔は、本当に美しいと思った。人間は全てがそぎ落とされた時に、こんな美しい姿と、音楽家として美しい音楽を奏でるのかと感動しました。皆さんも感動して頂けると思います」と、静かな口調ながら作品に太鼓判を押した。【村上幸将】