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IT・科学

「ダイエット中にラーメン食べちゃった」を救うAIテクノロジーとは

「ダイエット中にラーメン」でも大丈夫な理由とは。※画像はイメージ
「ダイエット中にラーメン」でも大丈夫な理由とは。※画像はイメージ 出典: Getty Images

目次

手軽に食事の記録がつけられることで人気の食事管理アプリ。その一つである「あすけん」では、食事の内容を入力すると、栄養士の知識に基づいたAIが専用のアドバイスをしてくれたり、カロリーと各種栄養素の過不足を指摘してくれたりします。便利なアプリ開発の舞台裏や、ダイエットを成功させるための意外なテクニックについて、株式会社asken取締役で管理栄養士でもある道江美貴子さんに話を聞きました。(朝日新聞withHealth)
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いかに記録するハードルを下げるか

食事管理アプリの代名詞になりつつある「あすけん」。現在、会員数は900万人を突破し、運営企業のasken社によれば「20~30代女性の約半分が使用している」ということです。

競合アプリは数多いものの、モバイルデータ分析企業data.aiが集計したアプリダウンロード数と売上(有料会員数を反映)では、2021年から3年連続で1位という結果になりました。

「あすけん」が一般向けにウェブサービスをスタートしたのは2008年。当初から、一日の食事内容を入力すると、栄養素やカロリーの過不足がグラフで可視化され、AI栄養士の「未来(みき)さん」がアドバイスをくれるという、現在と同様のコンセプトでした。

「『栄養指導』や『特定保健指導』など、栄養士による食事内容の分析とアドバイスは、病院に行って受けるイメージがあると思います。それをデジタルで再現することによって、手軽に賢い食事の選び方を伝えられるのでは、とこのサービスを始めました。

当時はそういう言葉はあまり知られていませんでしたが、“栄養指導の一部をDXする”という発想です。栄養指導のスタンダードな方法として、事前に対象の方に数日分の食事記録を紙に書いてきてもらって、それを栄養士が手計算するというフローがあります。それをご自身で事前にパソコンで食べたものを記録してもらい、栄養計算してその分析結果を表示するところまで自動化する、というフローにアップデートしようと考えたのです」

「食事を記録すること自体は新しいことではない」と道江さん。食事の内容を記録する、いわゆる「レコーディングダイエット」は、ダイエット法としても以前からあるもので、減量時に勧められるものです。しかし、道江さんも「記録する、それも毎日って、本当に大変なこと」と認めます。

そのため、「あすけん」ではいかにユーザーが記録するハードルを下げ、モチベーションを保ってもらうかを意識していると道江さんは言います。

「『あすけん』の特徴の一つはメニューのデータベースが15万件と豊富であることです。『食べたメニューが載っていない』のでは、そのアプリを使い続けたいとは思わないでしょう。サービスとして、このデータベースを常に最新に保つことを心掛けています。

昔よりメニューデータベースは多くなりましたが、同時に最新に保つことも以前より大変になりました。例えば、コンビニは商品の入れ替えスピードが早く1週間に1回くらいのペースで新商品が発売されることもあります。以前からある商品では、内容量の変更が話題になりますが、そうしたアップデートにも注意を払っています」

新商品や変更については、ユーザーからの報告を受けて、同サービスを作る15人の栄養士がチェックする体制を敷いているそうです。

記録は「ゆるっとでもいい」理由は

こうしたきめ細やかな対応を続ける「あすけん」が、他のアプリと異なる点について、道江さんは「サービスとユーザーのコミュニケーション」と考えています。

「表面上の機能を並べると、他のアプリと一緒かもしれません。でも、弊社の場合は機能だけでなく、ユーザーのみなさまがあすけんというアプリを通じて食事の選び方を学び、食習慣が変わっていくことを、長い目線で支援するように意識しています」

未来さんがかける言葉の内容や、どのタイミングで何を言うかなど、単なるAIのアドバイスではなく、栄養士たちが画面の向こう側の人を思い浮かべながら作り上げているのが「あすけん」の強みです。

「ヘルスケアのサービスはすべて継続が課題と言ってもいい。食事は運動と違い、今の所ウェアラブルデバイスでも自動的には記録できません。だからこそ、アプリとユーザー様の接点を増やし、利用開始初期はプッシュ通知をしたり、『記録したこと自体をほめる』ような未来さんのメッセージを出したりしています」

一方で、記録するという行為は、何らかの報酬がないと継続できません。「あすけん」ではそれを未来さんとのやりとりで提供しています。

食事の記録は、スーパーやコンビニなどの商品であれば、バーコードでも登録できます。食事の写真を撮影し、画像を分析する機能もありますが、例えば同じ「野菜炒め」であっても、どれだけ油を引くかは各家庭により異なり、肉に含まれる脂の量も日によって違うように、その精度には限界があります。

こうしたこともあり、道江さんは「ゆるっとでもいい」と言います。例えば、食事の記録を厳密にしようとすると「飲み会のときに脱落することが多い」(道江さん)。そのため、「ざっくり記録」の機能では、「飲み会」という項目を設けて、一般的な飲み会での飲食のカロリーや栄養素、アルコール量を記録できます。

「細かく記録できるユーザー様もいらっしゃいますが、そうじゃないユーザー様もいらっしゃいます。『何を食べたっけ、飲み会だったんだけど』でも、まずは記録することが大事です。

食事の記録が面倒であれば、体重だけでもいい。一度挫折しても、戻ってきてくださる方もたくさんいらっしゃる。帰ってきたらまた温かく迎える。それも許容するようなサービスでありたいと思っています」
 

食べたいものを食べるためにどうする?

一方で、課題もあります。一つは「男性の認知度はまだまだ」(道江さん)であること。現在、会員から人気の「ボディメイクコース」は、ターゲットである男性のユーザーにインタビューをして、ニーズを聞き取って誕生しました。

このコースでは、たんぱく質の量だけでなく、PFCバランス(たんぱく質、脂質、炭水化物のバランス)についても可視化し、未来さんからアドバイスをもらえます。しかし、ここでもストイックになりすぎないための工夫があるそうです。

「『あすけん』として伝えたいのは、たんぱく質を摂りすぎると脂質の量も増えてしまうということ。その結果、健康診断の結果が悪くなってしまっては、本末転倒です。ボディメイクコースに限らず、アドバイスは、長い目で見てユーザーのみなさまの健康を害することがないように心がけています」

こうした食事管理アプリを利用する上で、何かコツのようなものはあるのでしょうか。道江さんはおすすめの使い方として「ダイエットが成功するユーザー様には、食べたものを記録するだけでなく、『これから食べるものを記録する』という方もいます」と教えてくれました。

食べてからカロリーの過不足や栄養バランスが悪いことを知るのではなく、「これからこれを食べたらどうなるんだろう」とシミュレーションするような使い方、ということです。

このような使い方をすれば、「ダイエット中だけど昼にラーメン食べちゃった」といったシーンでも、「夜は何を食べればいいだろう」と前向きに生活習慣を改善することができる、と道江さんは言います。

「ダイエットというと、どうしても『食べられない』イメージがあるかと思いますが、『食べたいものを食べるために、他のメニューを組み立てる』という考え方を『あすけん』から普及させたいと考えています。食べる楽しみを失ってしまうと、記録もダイエットも続きません。

QOL(生活の質)、ウェルビーイング的な考え方は、これからもっと重要になっていくでしょう。いろんなストレスがある社会ですから、せめて食事の時くらいは、なるべく自由でありたいですよね。あすけんは食べ物を見える化するアプリなので、一旦、まず自分の状況を把握することで気づきがあると思います」

「出されたものを食べる」「お腹が空いたから食べる」だけではなく、自分にとって必要なものを「考えて食べる」という習慣。便利なアプリにより、それは今、身につきやすくなっているともいえるでしょう。
 

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