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70年代から80年代の演劇界を牽引し、ゴールデンコンビといわれた劇作家の清水邦夫と演出家の蜷川幸雄。いま再び脚光を浴びているこのコンビが満を持して贈る『雨の夏、三十人のジュリエットが還ってきた』。17年ぶりの上演となる本作が、5月6日東京・シアターコクーンで初日の幕を開けた。
物語はある地方都市の百貨店で始まる。かつてこの店に所属していた「石楠花少女歌劇団」の熱狂的なファン・新村(古谷一行)ら“バラ戦士の会”は、元団員の景子(三田和代)と『ロミオとジュリエット』の稽古に励んでいた。数十年前の空襲で劇団は解散したのだが、その現実を認められない景子は、いまだに男役スターの俊(鳳蘭)を待ち続けている。偶然、稽古を見た北村(ウエンツ瑛士)や振付家の夏子(中川安奈)は呆れるが、新村は元劇団員を再び集めようと新聞広告を打つ。元歌姫の沙織(毬谷友子)や、俊の妹の理恵(真琴つばさ)が集まるにつれ、傍観者だった北村や夏子までが不思議な高揚感に包まれていき……。
舞台上には中央に15段と、その上に両翼に広がる8段の大階段を設置。これが百貨店の階段でもあり、レビューシーンでは電飾が点いて、宝塚歌劇団でもおなじみの大階段となる。“伝説の男役”の俊を演じる鳳は、自身と重なるような役どころとあって圧倒的な存在感で、失われたものへの哀惜を全身からにじませる。その妹で俊に深い愛憎を抱く理恵役の真琴は、逆に虚無感を漂わせて好対照だ。元宝塚男役トップスターでもあるふたりが見得を切るように大階段をゆっくりと降りる場面は、役と現実の二重構造を思わせて興味深い。
景子役の三田は、硬質な少女性と狂気を醸し出して秀逸。本当に精神を病んでいるのか最後までわからない紙一重さが、観る者を引き込む。社会的に地位のある紳士ながら、彼女らの熱狂的なファンでもある新村を演じる古谷に、穏やかな存在感。熱に浮かされて暴走してゆく女たちをやんわりと覚ますリアリティがある。また、これが初舞台のウエンツは難役の北村を好演。セリフも聞き取りやすく、自然体で舞台に立っているのがいい。2幕の冒頭ではサプライズな登場もある。
舞台は清水の脚本らしく、軽い笑いを散りばめながらも最後は衝撃的なラストを用意している。劇中で叫ばれる「この時代を超えて残るものはあるだろうか」(ロミオのセリフ)という言葉は、清水と蜷川の、社会と、そして自分自身に問いかける心の叫びだろう。エンディングに流れる忌野清志郎の『デイ・ドリーム・ビリーバー』が、鋭く胸に響いた。
公演は5月30日(土)まで、シアターコクーンにて。
(取材・文:佐藤さくら)
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