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人気脚本家・山田太一の同名小説が原作の舞台「異人たちとの夏」が、7月4日夜、東京・シアタークリエで幕を開けた。大林宣彦監督による1988年の映画版では主演の風間杜夫、日本アカデミー賞助演男優賞を受賞した片岡鶴太郎らの名演が光り、今も根強いファンを持つ本作。主人公と今は亡き“異人”たちとのひと夏の交流を描き、小説や映画ではオカルトチックな描写も印象的だったが、今回上演台本も手掛けた演出の鈴木勝秀は原作の“核”を丁寧に掘り下げる作業に集中。結果、爽やかな涙を誘う愛情深いドラマに仕上がっている。
離婚して間もないテレビドラマの脚本家・原田(椎名桔平)はふと訪れた生地の浅草で12歳で死別したはずの父(甲本雅裕)に呼び止められ、父とともに死んだ母(池脇千鶴)とも再会。また同時期、同じマンションの住人だというケイ(内田有紀)と知り合い、不思議な魅力を持つ彼女と恋仲になる。懐かしい父母の温もりを求めてたびたび浅草を訪れる原田だったが、生気を吸い取られたかのように肉体は日々やつれ、やせ細っていく。原田を案じるケイは、もう両親とは会わないよう原田に告げるのだが……。
原田が街角で亡き父に「よう、来いよ!」と呼び止められる冒頭から、このフィクションの世界にググッと引き込まれる。異界への扉を開けた原田とともに、客席の観客をもスムーズに招き入れる巧みな構成だ。ツボを抑えたシンプルさに定評のある演出家・鈴木の手腕により、異界に入り込んだ観客の集中力は最後まで妨げられることはない。余計な煽りやBGMを排し、抑制の効いた演出が冴える。鈴木とは幾度もコンビを組んでいる主演・椎名桔平も時に凄みを見せながら、人間の深い孤独を体現した。
特に印象的だったのは、原田と両親が最後に触れ合うすき焼き屋でのシーン。実際に肉の焼ける匂いが立ち込める中でなんとも心温まるやり取りがなされるのだが、別れが間近に迫っていることをその場にいる誰もが知っている。温もりと残酷さが交錯する空間に、観客のすすり泣く声が響いていた。
“異人”たちとの出会いと別れを経て、前を見据えて生きようとするラストの原田の姿が胸を打つ。人間は誰もが孤独でありながら孤独ではない――そんな優しいメッセージが胸に響く、大人に捧げるファンタジー作品となっている。
東京公演は7月25日(土)まで同所にて。その後、7月28日(火)から30日(木)梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ(大阪)、8月2日(日)中日劇場(愛知)でも上演される。チケットは発売中。
(取材・文:武田吏都)
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