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名作「三文オペラ」をベースに、ブラジルで生まれたミュージカル「オペラ・ド・マランドロ」。この異色の出自を持つ作品が7月25日、東京芸術劇場 中ホールにて初日の幕を開けた。出演は別所哲也、マルシア、石川梨華、石井一孝ら。演出は荻田浩一。
舞台は1941年のブラジル・リオデジャネイロ。物語は慈善団体のチャリティ公演という劇中劇の形をとって進行していく。マランドロ(ならず者)の首領・マックスは、密輸などの闇商売や愛人の娼婦マルゴの稼ぎで、気ままに暮らしている。悪徳刑事タイガーとも通じておりやりたい放題の彼だったが、売春宿を経営する町の権力者シュトリーデル夫妻の娘・ルーと結婚をしたことで夫妻の怒りを買い、逮捕され……。
政府がナチス支持を表明した不穏な時代背景を、鳴り響く軍靴の音が物語るオープニング。だが白スーツで決めたマックスが登場するやいなやその暗鬱とした雰囲気は一蹴され、マラカスのリズムも軽快なラテン・サウンドが劇場を包む。本作の脚本・音楽を手掛けたのはブラジル音楽界のカリスマ、シコ・ブアルキ。そのため、ラテン特有の陽気さが前面に押し出され、カラリとした印象だ。背景を第二次世界大戦、ナチスの台頭といった重苦しい時代に設定しながらも、「三文オペラ」の風刺的色合いは薄れ、こんな時代だからこそしたたかに立ち回れば楽しく生きられる、という前向きな生命力の輝きが描かれる。
マックスを演じるのは別所哲也。舞台栄えする長身に粋なスーツの着こなしが格好良く、男らしさといい加減さのバランスがチャーミング。マルゴにはマルシア。マックスへの愛を歌うナンバーで切ない女心をしっとり聴かせるとともに、故郷・ブラジルサウンドに乗せたダンスもセクシーに披露した。石井一孝も“長いものに巻かれろ”と調子良く立場を変えるタイガーを楽しそうに熱演。ルーに扮する石川梨華は恋する少女を可愛らしく演じるが、マックスをマルゴと取り合うシーンではベテラン・マルシアに対し一歩も引かず、嫌味全開で“女の戦い”をする姿も爽快だ。マランドロたちに扮するDIAMOND☆DOGSの格好良さ、オカマのジェニに扮した田中 ロウマのキュートさも特筆したい。
逮捕され仲間にも見放され、絶体絶命に陥ったマックスを、「三文オペラ」では唐突な大団円が救うことになるが、こちらでは劇中劇、また政局が不安定な1941年のブラジルに設定を置いたことが上手く活きる終幕に。最後にはサンバチームも乱入し、カオス的熱狂が劇場を包み込む。政治がどんなにひどくても、楽しく生き抜いてやるというエネルギッシュな人々が最終的には勝利するのだ。生命力溢れるマランドロたちの熱いパワーが、この夏、不況ニッポンに元気を注入してくれそうだ。
公演は8月2日(日)まで同所にて。その後、8月8日(土)・9日(日)に愛知・中日劇場、8月18日(火)に大阪・梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ、8月21日(金)に宮城・電力ホールでも上演される。
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