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今年7月に惜しまれつつ亡くなった新国立劇場オペラ芸術監督・若杉弘が「7大重要オペラ」に挙げた『ヴォツェック』が11月18日に開幕を迎えた。
アルバン・ベルク作曲『ヴォツェック』は、20世紀オペラの金字塔と言われ、非常に高度な演奏技術を要するにも関わらず、世界中のオペラハウスでレパートリー化される重要作だ。“ドイツ演劇界の鬼才”アンドレアス・クリーゲンブルクの演出、ドイツのバイエルン州立歌劇場との共同制作で昨年11月のミュンヘン初演も大成功を収めた本作が、待望の新国立劇場初登場となる。
貧乏兵士ヴォツェックが、不倫を犯した妻マリーを狂気の末に殺害し、自らも溺死するという壮絶な物語。「この作品は『椿姫』『アイーダ』のような上流社会ではなく、社会の底辺にいる人々を描いているのです」と説明するアンドレアス・クリーゲンブルクの演出は、貧困や抑圧、社会不安など現代社会にも通じるテーマを如実にえぐり出す。
舞台は、主人公ヴォツェックの視点から見た世界として描かれる。異様なほど太った上官の大尉、拷問部屋から出てきたような恰好の医者など歪んだ形をした登場人物。暗くじめじめとした雰囲気をもつ牢獄のような舞台装置。舞台全てが“ヴォツェックが見ている悪夢そのもの”を表現する。クリーゲンブルクは「不条理な境遇に無抵抗なヴォツェックに対し、怒りや憤りなど強い感情を呼び起こしてもらいたい」と過激さを帯びた演出の意図を語る。
「今回の上演は若杉芸術監督に捧げたい。若杉さんとは非常に親しい間柄だったし、当初は彼自らが指揮する予定だった念願の作品だからこそ代わりに指揮するのは光栄です」と言うのは指揮のハルトムート・ヘンヒェンだ。一般的に難解な現代音楽とされる『ヴォツェック』についても「ベートーヴェンの『田園』やシューマン、マーラーの作品からの引用もあり、ワーグナーのライトモチーフの手法もベルク流に進化させた作品。難しい現代音楽だと思わず、後期ロマン派作品だと思って聴いて欲しい」と聴き所をアピールする。
“初演魔”として有名で、2008年よりオペラ芸術監督を務めた新国立劇場でも、ツィマーマン作曲『軍人たち』(2008年7月)、ショスタコーヴィチ作曲『ムツェンスク群のマクベス夫人』(2009年5月)など、20世紀オペラの上演を実現させた指揮者、若杉弘。演奏困難な作品についても確たる本質を見出し、上演実現に挑みつづけたマエストロの遺産といえる新国立劇場オペラ『ヴォツェック』。今後の公演は、11月21日(土)、23日(月・祝)、26日(木)の3日間、新国立劇場オペラパレスで上演される。チケットは発売中。
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ハルトムート・ヘンヒェン
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