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江戸時代の初演以来、戦前までしばしば上演されていた人気演目ながら、衆道をテーマにした内容と本火を使った演出などの理由で、上演が途絶えていた『染模様恩愛御書』(原題は『蔦模様血染御書』)。復活狂言の演目を探していた市川染五郎が、その面白さに気付いて上演にこぎつけたのが2006年のこと(大阪・松竹座にて)。初日の幕が開くやいなや、敵討ちという歌舞伎本来の美学と、21世紀ならではのスペクタキュラーな仕掛けがあいまって話題を呼んだ本作が、3月6日、東京・日生劇場で待望の再演を迎えた。
江戸時代。大川友右衛門(染五郎)は、細川越中守の小姓・印南数馬(片岡愛之助)に一目惚れをし、慕うあまりに中間(屋敷の下働き)に身を落として細川家に入る。初めは驚く数馬だったが、やがてふたりは衆道の契りを結ぶことに。その夜、数馬は友右衛門に父の十内(市川欣弥)が濡れ衣によって殺されたことを明かし、共に仇を討つことを誓い合う。そんな折り、妹・きく(中村芝のぶ)の嫁ぎ先を訪れた友右衛門と数馬は、その夫が宿敵・横山図書(市川猿弥)であることを知り……。
復活にあたっては、三世河竹新七作の通し狂言をもとに、新しく脚色を加えたという本作(今井豊茂脚本、奈河彰輔演出)。染五郎自身のアイデアも多く反映されており、原作より粗筋はシンプルに、また友右衛門と数馬の恋はより強調した仕上がりになっている。冒頭は旭堂南佐衛門の講談から始まるが、これが一気に物語世界に観客を引き込んで効果的。南佐衛門はクライマックスの火事場でも登場、張り扇を使った振り絞るような声で、通常の歌舞伎とは一味異なる高揚感に会場を巻き込んでゆく。
一方、現代の特殊効果を取り入れた舞台装置や本火を使った小道具、25段もの階段落ちなど、これでもかといわんばかりのエンタメ要素も次々に登場。“敵討ち”に“火事場”とハラハラし通しの展開で、歌舞伎初心者にも充分に楽しめる構成となっている。染五郎の一途な男らしさ、愛之助の浮世離れしたたたずまいのほか、数馬に横恋慕する腰元・あざみ(市川春猿)の哀れさが涙を誘う。敵役・図書を演じる猿弥の太い存在感がいい。
さて、話題となっている“衆道”だが、前半の友右衛門と数馬が恋に落ちるシーンがやはり印象的だ。尺もたっぷりとってあり、そこから全てが始まるということがよく分かる。やがてふたりは結ばれるが、ラブシーンでは笑いの要素も入っており、いささか意外。だがその直後、互いの腕を切って血をすする義兄弟の契りを結ぶくだりでは、逆に濃厚なエロチシズムが漂う。後半、友右衛門は信義による死へと突き進むが、この愛と死の表層が、単なるホモセクシャリズムとは異なる“衆道”の本質を示しているのは明らかだろう。
3月26日(金)まで東京・日生劇場にて上演。現在、通常のチケットのほか、お得な割引当日引換券も発売中。
取材・文:佐藤さくら
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