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誰もが熱く生々しく、不恰好だが痺れるような痛みと共に生きていた1960〜70年代。その時代をそれぞれに駆け抜けた蜷川幸雄(演出)と寺山修司(原作)の現代での邂逅が、10月29日に埼玉・彩の国さいたま芸術劇場で開幕した舞台『あゝ、荒野』だ。とてつもない熱量を演者にも要求する本作に挑んでいるのは、それぞれ2度目の蜷川作品となる松本潤と小出恵介。若手ながらくっきりと太い輪郭をもつ彼らの存在感で、テラヤマワールドが見事に現代によみがえった。初日の開幕前に囲み会見が行われた。
ビルの合間にネオンがきらめく架空の街「新宿」。自信家ながら自らの現状に苛立っていた<新宿新次>(松本)は、<片目のコーチ>(勝村政信)に誘われて入ったボクシングジムで、同じくボクサーを目指す吃音の<バリカン>(小出)と出会う。両極端な性質ながら奇妙な友情を育んでいくふたり。だが欲望に対する強いエネルギーと自信に満ちた新次に対し、モノローグでしか心情を語れないバリカンは、新次と対戦することでしか自分は自由になれないと感じ始める。対戦のためにジムを移籍するバリカンと、黙って彼を見つめる新次。そしてついに壮絶な対決となる日がやってきた……。
フォトコールでは、第1幕と第2幕からそれぞれ10分ずつ上演。第1幕の新次とバリカンが出会うシーンでは、オールバックに派手な白スーツ姿の松本に目が引きつけられた。周囲を睥睨するような鋭い眼差しを持ちながら、片目のコーチと話すときには鮮やかな笑顔がこぼれる。一方の小出も、地味なジャージに自信なさげな態度が、ひとたびスパーリングに入ると目つきがガラリと変わるのがさすが。そんなふたりが第2幕では、公園のジャングルジムで互いに胸の内をさらけ出し語り合う。まっすぐに上を目指す新次と、彼に憧れのような目を向けるバリカン。孤独な魂がふと寄り添う様子に、胸苦しいような切なさを感じたワンシーンとなった。
その後行われた囲み会見では、「本物のリングを使って殴り合うし、セリフも膨大。精神的にも肉体的にも大変だけど、ふたり人ともよくやったと思う」と蜷川から率直な感想が。会見中も時折鋭い目つきになり、新次が抜けないように見える松本は「原作をとにかく読んで、あとは人に聞いたりしてイメージを膨らませました。あの時代の『新宿』を今の僕らが生きることで新鮮に伝えられたら」と意気込みを語った。「蜷川さんにはゲネプロまでけちょんけちょんに言われて……。松本さんとは(新宿の)ゴールデン街まで飲みに行きました。カキピーしかなかった」と毒づきながらも楽しそうな小出に、蜷川と松本が笑顔で突っ込むひと幕も。作品同様、固い信頼関係で結ばれた3人の様子に、血の通った舞台の理由を垣間見た気がした。
取材・文 佐藤さくら
公演は11月6日(日)まで、同劇場にて上演。その後、11月13日(日)から12月2日(金)まで東京・青山劇場で公演が行われる。前売りチケットは完売。各公演の前日に、当日券販売整理番号の電話受付を行う。
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