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悪を武器に成り上がる! 野村萬斎が渾身の演技で魅せるピカレスク
2012年06月14日 11時09分 [演劇]
『藪原検校』舞台写真より(撮影:谷古宇正彦)
『藪原検校』舞台写真より(撮影:谷古宇正彦)

劇作家・故井上ひさしの喜寿を記念し、その代表的な8作品を年頭から連続上演している「井上ひさし生誕77フェスティバル2012」。その第4弾『藪原検校』が6月12日に東京・世田谷パブリックシアターで幕を開けた。

『藪原検校』チケット情報

今作は、盲人として生まれたハンディを悪に徹することで乗り越え、若くして権力の頂点を極めながら破滅する男・杉の市(二代目藪原検校)の一代記。井上戯曲を数多く手がけながら今作は初演出となる栗山民也、これが初の井上作品出演であり、杉の市を演じる野村萬斎の強力かつ新鮮なタッグも注目されていた。

約3時間の舞台は戯曲を深く読み込んだ演出家の創意と、それに応える俳優陣のエネルギッシュな演技ではち切れんばかり。語り手役・盲太夫の浅野和之は膨大な台詞を操りつつ劇世界に遊ぶ余力を見せ、秋山菜津子演じる杉の市の運命の女・お市は凄まじいまでの色香と生命力で女の業を体現する。杉の市の父・七兵衛や、学問で検校の座まで上り詰める杉の市のライバル塙保己市など、善悪硬軟を自在に演じる小日向文世からも目が離せない。また、熊谷真実、山内圭哉、たかお鷹、大鷹明良、津田真澄、山崎薫らも複数役を演じながら、盲人が主人公ゆえ“音”にこだわる戯曲を体現すべく鐘の音、犬の遠吠え、物売りの声までをその声と身体で舞台に乗せていく。

だが、やはり圧巻なのは萬斎・杉の市だ。欲望のままに殺し、奪い、盲人を差別する世間に復讐するかのように出世の階段を駆け上がる。子供の純粋と残酷を併せ持つ“異形の殺人者”役に、狂言師の強い身体性や独自の発声がピタリとハマり、これまでのパブリック・イメージを刷新する野太く猥雑な役者の姿がそこにあった。

劇中、千葉伸彦によるギター演奏ともつれあうように歌い、舞台を疾駆する杉の市は徹底的に悪を成すことで、観客の誰もが同様に身の内に悪を潜ませていることを告発する。その告発は断罪が目的ではなく、自身の悪を飼い慣らし生きざるを得ない人間という生き物の滑稽さを代弁するもの。潔く破滅する杉の市は、市井の人間が世間と折り合いをつけて生きるために捧げられた生贄なのだ。そんな世界の真実を喝破する作家の視線が、観る者に鋭く迫る稀有な舞台が誕生した。

公演は7月1日(日)まで同劇場にて上演。その後、7月6日(金)から8日(日)に兵庫県立芸術文化センター、7月14日(土)・15日(日)に新潟市民芸術文化会館にて開催。チケットは一部を除き発売中。なお、「井上ひさし生誕77フェスティバル2012」第5弾の『しみじみ日本・乃木大将』と第6弾の『芭蕉通夜舟』のチケットも現在発売中。

取材・文:尾上そら

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