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東京・シアタートラムにて上演された『すうねるところ』。木皿泉が初めての舞台脚本を手がけ、薬師丸ひろ子が14年振りの舞台に立つなど、話題の詰まった演劇作品だ。演出は内藤裕敬が担当している。9月某日、昼公演を終えたばかりの萩原聖人に話を訊いた。
不老不死の身体をもつ吸血鬼3人(薬師丸、萩原、篠井英介)は、小さなパン屋を営みながら人間の子ども・マリオ(村井良大)を育てている。吸血鬼という非日常の存在。しかし描かれるのはテレビを見ておしゃべりをし、時に子どもの成長に戸惑う、そんな日常だ。「きっと木皿さんもいろんな出来事を重ねて描かれた脚本でしょうし、受け取る人によってこの家族は様々な見え方をすると思うんです。でも、演じる僕らは『こんなことを感じ取ってほしい』という説教くさいことはひとつも考えていない。毎日新鮮な気持ちで、楽しくあの場を生きるだけです」。そう笑顔で萩原が語るとおり、丁々発止の掛け合いはこの作品の大きな魅力。時折どこまでがセリフでどこからがアドリブかわからなくなるほどいきいきとした言葉が飛び交う。「薬師丸さんはむちゃくちゃな人(笑)。今日も本番1分前に『あの部分、もう少し自由にやってみようかしら』と相談してきて、実際に思いがけないアドリブを入れてきた。でもそれが成立しちゃうんです。心と顔の筋肉がつながっていて、心の動きがそのまま表情に出る。普通ならそこをつなげるまでが難しいと思うのですが、それが自然にできてしまうすごい人だと思います」。
萩原が演じる夏彦は、不器用ながらも人間の子どもに向き合おうとする男。「愛あるがゆえにうまくコミュニケーションがとれないことって、最近世の中にいっぱいある気がします。その感じが、いかにも人間らしいと思うんです」。マリオを演じる村井については「これだけ小さなサイズの芝居は初めてみたいで、すごく苦労してます。でもこの経験がきっと彼を大きくするんじゃないかな。良大が内藤さんにダメ出しされているのを聞きながら、僕らも『ああ、その通りだな』と初心を思い出せるんです」。
登場人物はたった4人。とくに吸血鬼の3人はほぼ出ずっぱりだ。「毎日『疲れたー』って心の底から思います。若い頃は芝居が楽しかったけれど、歳を重ねるほどに正解がわからなくて苦しくなる。でもしっかり疲労できるということは、ちゃんと芝居に向き合えてるってことだと思うんです」と真剣なまなざしで語る。この作品は東京公演の後兵庫、そして全国を回る。「特に最後の新潟、福岡、大阪は1日置きのハードスケジュール。その分、家族4人でめちゃくちゃおいしいものを食べにいってやろうと企んでます(笑)」。
今後の公演は9月13日(木)・14日(金)に兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホールにて上演後、愛知、新潟、福岡を巡演し、9月24日(月)に大阪・梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティにて千秋楽を迎える。チケットは一部を除き発売中。
取材・文:釣木文恵
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