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久しぶりに登場した“Work Play(労働の演劇)”の書き手として、世界中から注目を集めている英国人劇作家のリチャード・ビーン。彼がビーン家の歴史から想を得、二度の世界大戦を挟んで、ある男の19歳から109歳までに及ぶ100年間を描いたのが、この『ハーベスト』だ。日本初演にしてビーン作品の初上演でもある本作において、主人公のウィリアムを演じるのは渡辺徹。渡辺は5月に虚血性心疾患で手術を受けてから、これが復帰第1作となる。12月11日、その初日を世田谷パブリックシアターで観た。
イギリス、ヨークシャー州。ハリソン家は細々と馬や穀物を育てていたが、第一次大戦が始まり、大事に育てた馬が軍に連れていかれるのを、長男のウィリアム(渡辺)と次男のアルバート(平岳大)は黙って見つめるしかない。時は飛んで戦後。徴兵されて両足を失い帰国したウィリアムは、第二次大戦後に念願だった養豚業を始める。働き手はアルバートとその妻モーディー(七瀬なつみ)、姪のローラ(小島聖)と元ドイツ人捕虜の夫ステファン(佐藤アツヒロ)だけだが、ウィリアムの緻密なケアによって仕事は軌道に乗る。お調子者だが憎めないティッチ(有薗芳記)も加わり、前途洋々に見えたのだが…。
渡辺は無力な若者に過ぎなかった第1場(1914年 種馬の男)から、知恵を使って生き抜くすべを覚えた第2場(1934年 アダムとイブ)、地主との関係が変化を見せ始める第4場(1958年 肥やしの日)と、時代を追うごとに緩急自在な演技力を発揮。風変わりな地主エイガー(吉見一豊)との階級を越えたやりとりでも客席を湧かせる。演出の森新太郎は、演劇集団円の演出部所属。まだ30代半ばだが、戯曲に真っ向から取り組み、作品の魅力を丁寧に浮き彫りにする手腕に定評がある。本作でもひとりの農夫が生き抜くさまを、時にふてぶてしいほどの生命力を感じさせつつ、時に英国人作家による戯曲らしいブラックユーモアも散りばめながら、テンポよく綴ってゆく。
セットの石造りの田舎家が盆回しで回転するごとに時代が変わり、各場はウィリアムの心情を必要以上に語らないまま、シーンのハイライトで暗転する。その突き放したような客観性によって、観客はウィリアムの人生をたどると同時に、自らの父祖を遡るような錯覚を覚えることになる。20世紀という稀有な100年とはなんだったのか。その問いは、21世紀を生きる私たちへの問いかけでもあるのだ。
公演は12月24日(月・祝)まで。
取材・文:佐藤さくら
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