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演 劇
松山ケンイチの初舞台作品として、大きな注目を集めている『遠い夏のゴッホ』。東京・赤坂ACTシアターでの初日まで約20日と迫ったある日、スタッフ、キャストが奮闘を続ける稽古場を訪れた。
自分と同じセミの幼虫のベアトリーチェに恋をした、せっかちな性格のゴッホ。2匹は羽化後、恋人となることを約束するが、ゴッホが生まれたのはベアトリーチェより1年前だった。先に地上に出てしまったゴッホは、さまざまな森の生物と関わりを持ちつつ、ベアトリーチェが羽化する来年の夏まで生き延びようとするのだが…。
この日の稽古は、全員が登場する冒頭シーンから。作・演出の西田シャトナーが本番前の客席の光景を語り出すと、そこは静かに物語の舞台へと変わっていく。そしてキャストの口から語られるのは、生き物たちの住処である自然界の情景。その言葉はやがて手、腕、足の動きへと形を変え、ついには体全体を使って雄大な自然を表現し始める。振付家の香瑠鼓から「大地を感じて、風を感じて、周りを感じて!」と檄が飛ぶと、役者の体からは無駄な力が抜け、より伸びやかに稽古場中を駆け巡る。
そして役者の肉体は、ついに虫へと変化する。本作最大の課題こそ、この“虫を演じる”ことだと思われた。しかし西田は「人間→虫」ではなく、「自然界→虫」という、より自然な段階を役者に踏ませることで、この難問をクリア。そうすることで観客も、この不思議な世界観にスッと入り込むことができるはずだ。またこの冒頭シーンは作品世界を象徴する重要なシーンでもあり、それは「今はまだ完璧にしなくてもいいです。ここには今後の芝居をフィードバックさせていくので」という西田の言葉からも明らかであろう。
初舞台ながらその顔に迷いはなく、多くは語らずとも座長としての責任感を芝居で示す松山。ベアトリーチェ役の美波は、共演者すべてに声をかけ、ムードメーカー的役割を担う。ベテランとして稽古を引っ張るのは、安蘭けいと石川禅。特に冒頭で披露される安蘭の歌声は、多くの観客の胸を打つこと必至だ。非常に高い身体性を見せるのは、振付師としても活躍する竹下宏太郎。その表現力の高さに、西田からはみんなのお手本を頼まれるほど。
冒頭シーンだけで、これほどワクワクさせられる舞台もなかなかない。演劇ならではの表現方法にこだわる西田に、初舞台の松山がいかに応えてみせるのか。その成果のほどは、2月3日(日)の開幕まで楽しみに待つこととしよう。
取材・文:野上瑠美子
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