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初演から半世紀を経てなお迫りくる、別役実の衝撃作『象』上演
2013年06月26日 16時40分 [演劇]
新国立劇場『象』稽古場より。大杉漣  撮影:源 賀津己
新国立劇場『象』稽古場より。大杉漣  撮影:源 賀津己

別役実の初期の代表作とされる舞台『象』が7月、新国立劇場小劇場に再び登場する。初演は1962年、別役が25歳の時に発表した衝撃作だ。新国立劇場では2010年3月に、関西で活躍する劇団桃園会の主宰・深津篤史の演出で本作を上演。同劇場において岸田國士作『動員挿話』や三島由紀夫作『近代能楽集?弱法師?』のほか、昨年はハロルド・ピンター作『温室』の演出を手がけて高い評価を得た深津が、3年ぶりに『象』の再構築に挑む。その稽古場を訪れた。

新国立劇場演劇『象』

稽古場には、奥行きを贅沢にとった四方舞台が空間いっぱいに設置されていた。舞台面には色とりどりの古着が積み重なって敷き詰められ、病院の簡素なパイプベッドと丸椅子があたかもそこに流れ着いたかのように置かれている。深津の穏やかな合図で通し稽古が始まった。こうもり傘をさした男(木村了)が現れ、彼が“叔父さん”と呼ぶ病人を見舞う。ベッドに横たわる病人(大杉漣)は原爆症患者で、かつて背中に負ったケロイドを見せ物にして、人々から拍手喝采を受けていた。病状が悪化した今も、病人は再び人前に出て喝采を浴びることを熱望する。自らも被爆している男は、「ひっそりと我慢しなくては」と病人に静かな終焉を迎えるよう説得する。そのふたりを中心に、病人の妻(神野三鈴)、看護婦(奥菜恵)、医者(羽場裕一)など、彼らをとりまく人々との対話が無秩序に展開し、不穏な空気を増幅。不条理なやりとりの応酬が息詰まる閉塞感、漠然とした不安を呼び起こし、観る者に現実の痛みとなって突き刺さる。

端正な表情から謎めいた魅力が覗く木村と、圧倒的な存在感を見せる大杉。ふたりが醸す体温のアンバランスが胸騒ぎを誘発する。生者か死者かを惑わせる浮遊感を放つ奥菜も気がかりな存在だ。シーンを追ううちに、俳優たちがところどころ穴が開いたように無音を挟んで台詞を発していることに気づいた。これは深津独自の稽古の手法で、作品の核となる単語を音に出さずに心の中だけで発することで、その言葉の重要性を理解する狙いがあるそうだ。今回は“ケロイド”“ヒバクシャ”“ヒロシマ”という単語が伏せられていて、その無言の空白がさらに不条理を助長するという興味深い稽古風景が見られた。

根底に息づくテーマは原爆の恐怖と苦しみだが、登場人物たちの言動は笑いを誘うほどに喜劇的だ。半世紀も前の時代に原爆問題をシュールな笑いでまとい、力強く描いた作者の姿勢にあらためて驚嘆すると同時に、その笑いをすくい上げて斬新に表出する深津の手腕も再度注目したい。3年前の上演と構成に大きな変化はないという。だが震災を経た今、『象』が私たちに刻みつける残影は前回とどう変わってくるのか、その正体を確かめたい。

公演は7月2日(火)から21日(日)まで。チケット発売中。

取材・文 上野紀子

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