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昨年8月、三谷幸喜が初めて文楽の作・演出を手がけて話題を呼んだ三谷文楽『其礼成心中』。初演の好評を受けて早くも再演が決定し、8月8日(木)、パルコ劇場にてその幕を開けた。
ドラマの舞台となったご当地が有名になるのは、いつの世も変わらぬ現象。観光客が押し寄せるのならまだいいが、「心中の名所」となると縁起でもない。本作は、近松門左衛門作『曾根崎心中』の大ヒットでとばっちりを受けた、饅頭(まんじゅう)屋夫婦の物語だ。ヒット作にあやかり心中しようとするカップルを見つけては説教する半兵衛と、聞き上手の女房おかつ。山あり谷ありの夫婦の人生は、やがて近松本人をも巻き込んで、突拍子もない方向へと暴走を始める。「心中」というシリアスな題材ながら、蓋を開ければ笑いあり、涙ありの人情喜劇。展開の妙と、人間賛歌の温かな眼差しに満ちた三谷ワールド全開だ。「それなりに」日々を懸命に生きる夫婦の姿に、しみじみと愛しさがこみ上げる。
当然ながら通常の三谷作品との最大の違いは、人間の俳優ではなく、人形によって演じられること。「語り+三味線+人形」の三位一体でドラマを展開させる文楽は、日本が誇る古典芸能のひとつだ。と聞くと「難しそう」と尻込みする文楽ビギナーも少なくないかもしれないが、心配は無用。語り(義太夫)はテンポよく進む会話の応酬で、字幕はなくともすんなりと理解できる。その中にあって近松の二大名作『曾根崎心中』『心中天網島』の名場面はきちんと織り込んでいるあたり、長年培われてきた文楽という芸能に対する三谷の敬意が感じられて清々しい。
多彩な人物を語り分ける義太夫の芸の奥深さ、ビンビンと腹に響く三味線の音色に加え、魂の入っていないはずの人形が、血の通った人間に見えてくるこの不思議。一体の人形を三人で遣う(人形の頭と右手、左手、足を分担)文楽のスタイルは一見非効率的にも思えるが、ひとりで一体の人形を扱うよりも、ずっと滑らかで自然な動きを表現できる。それが義太夫と三味線とまさに一体化した時、人形には確かに魂が宿るのだ。その一方で、生身の人間には到底ありえない動きやポーズも朝飯前。“悔しくて七転八倒する娘”や、クライマックスの大仕掛けも、人形だからこそ大胆な動きが可能になり、大いに笑いを呼んでいた。
ストーリーテラーとしての三谷の才能と、不自由に見えながら実は自由な表現力を持つ文楽の底力は、観客にとっても幸せな出会いをもたらした。「三谷文楽」の第2弾、第3弾の実現を期待したい。
公演は8月18日(日)まで。チケット発売中。
取材・文:市川安紀
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