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30代の演出家3人の作品を上演する新国立劇場の試み「Try・Angle -三人の演出家の視点-」のvol.2を任されたのは演劇集団円などで秀作を手がけてきた森新太郎。演目にシェイクスピアと同時代の作家クリストファー・マーロウによる『エドワード二世』を選んだ。開幕まで2週間余りとなった9月下旬、その稽古場に足を踏み入れた。
実在のイングランド王・エドワード二世を描いた本作。愛人のフランス人騎士に異常なほどの寵愛を示し、分不相応な地位や役職を授けたことで高まっていく貴族や家臣の反感、妃の嫉妬。そうした不満はやがて爆発し……。
血みどろの権力闘争、愛憎や欲望に駆られた人々の思惑など多くの見どころを抱えるが、稽古を見て何より強く感じたのが柄本佑が演じるエドワード二世の魅力的なまでの“バカ殿”っぷり! 放蕩と堕落を体現し、愛する男のためだけに権力を駆使し、反乱で命が危険にさらされてもなお「私が何をした?」と悪いことをしたという自覚すらないさまは見事。
「シェイクスピアが示す成熟の一歩手前の“野蛮さ”が残っていて、シェイクスピアの主人公が見せるような成長や魂の深みをのぞきこむような瞬間が一切ない。自己を顧みることなくひたすら肯定だけで突っ走っていく姿がリアル」とは本作に対する森の見解だが、柄本の演技を見てその思いをさらに深めたという。「脚本読みながら(エドワードを)バカだと思ってましたが、柄本くんを見て面食らいました。こいつ、こんなにバカだったのか?って(笑)。真剣に悩み悲しむけど一歩引いて見ると喜劇になっているというのが素晴らしい」と称賛を惜しまない。柄本が壇上でシリアスに振る舞い、本気で愛し(熱烈なキスも!)、本気で悲しみに沈めば沈むほど、稽古場は笑いに包まれる。
「俳優の感情を最大限に引き出す」という森の意向で舞台装置はごくシンプルだが、最大一人四役を担う17名もの俳優陣が入り乱れるさまは圧巻。「後ろの衛兵たちが豪華で圧がすごい。オヤジたちが明らかに楽しんでる(笑)」と森が語るように、大谷亮介、瑳川哲朗ら錚々たる顔ぶれのベテラン俳優たちが、軽やかにステップを踏み華麗な剣技まで披露する。
「おじさんたちに負けない強い“女性性”が必要なヒロイン」(森)という妃を演じる中村中、森が「僕の中で彼をどう描くかが“裏テーマ”でもある」と語る次世代の王となる王子を演じる10代の安西慎太郎など若手の存在感もきらりと光る。凄まじいまでのエネルギーと虚無に満ちた物語の完成を待ちたい。
公演は10月8日(火)から27日(日)まで新国立劇場 小劇場にて。チケットは発売中。
取材・文・撮影:黒豆直樹
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