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「ばら色の人生」「愛の讃歌」などで知られる、フランスを代表する歌姫エディット・ピアフ。その波乱に満ちた人生はしばしば映画化・舞台化されているが、ちまたで語られるピアフ像に異を唱えているのが、同じく稀有な歌い手であり、自ら作詞・作曲を手がけるシンガーソングライターでもある美輪明宏だ。美輪が脚本と演出、主演、また美術や衣裳も手がける『美輪明宏版「愛の讃歌」〜エディット・ピアフ物語〜』では、ピアフは恋に溺れるエキセントリックな女ではなく、男たちに無償の愛を捧げ、時に偉大な芸術家として彼らを歌の道へと導いた面に焦点を当て描かれる。1979年の初演以来、美輪が大切に再演を繰り返している本作について聞いた。
『美輪明宏版「愛の讃歌」〜エディット・ピアフ物語〜』チケット情報
本作の見どころといえば、芝居はもちろん、その中に織り込まれた名曲の数々。中でもピアフが愛したボクシングの世界チャンピオン、マルセル・セルダンの死によって生まれた「愛の讃歌」は、フランス語の原詩を日本人にもすぐにわかるようにした、ある“仕掛け”もあいまって、圧倒的な力で胸に迫る。
「実はピアフの歌詞は、日本で流行り歌となった『愛の讃歌』とは全く別もの。原詩は壮大で深遠な言葉でピアフの愛が綴られていて、彼女の高い芸術性をよく表しているんです。その点はお客様に伝えたいと思いましたし、物語のほうも20歳下の最後の恋人テオまで触れている作品はないけれど、本作ではしっかりと描きます。この作品を通して、これ迄の無知・無教養で淫乱なピアフ像が誤りだと皆様に知ってもらえたら」と美輪は言う。
初演から35年が経つ今も「より良い舞台を」と細部まで心配りを欠かさない美輪。インタビュー当日は、まさに新たなマルセル役のオーディションが行われていた。「イケメンじゃなくていいんですが、胸に厚みのあるボクサーらしい体つきで、ジムの臭いが伝わってくるようなたたずまいが必要。俳優というのは例えば四畳半に住んでいたら、その生活の匂いや普段の考え方がそのまま舞台にも出てしまうんです。コーヒーカップをつまむ指先だけでもわかるから、今の日本で私の舞台に合う俳優を探すというと、なかなか難しくて」と美輪は話す。今回はテオ役に美輪作品にも多数出演している木村彰吾、またピアフを陰に日向に支える妹シモーヌには、映画『誰も知らない』などで女優としても高い評価を得ているYOUが扮する。3年前の上演に続いて続投となるYOUについては「パリの下町時代からピアフと生きてきたシモーヌにぴったり」と、美輪は笑顔を見せた。
3時間を超える舞台。それを全身全霊で務めるのは大変なエネルギーがいるはずだが、美輪は「誰の人生にでも与えられた責務があるもの」とサラリ。凛とした表情で人間の深淵に挑み続ける美輪との時間は、それ自体が観る者にとって得難い“体験”となるに違いない。
公演は4月12日(土)から5月5日(月・祝)まで東京・新国立劇場 中劇場にて。その後、静岡、愛知、青森、宮城、神奈川でも公演。
取材・文:佐藤さくら
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