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ピュリッツァー賞受賞作家ドナルド・マーグリーズ作の『永遠の一瞬 -Time Stands Still-』が新国立劇場にて上演される。宮田慶子の演出の下、中越典子、瀬川亮、森田彩華、大河内浩が2組のカップルを演じる。6月下旬、初めての通し稽古が行われた稽古場に足を運んだ。
『『永遠の一瞬 -Time Stands Still-』』 チケット情報
イラクで負傷した写真家のサラ(中越)が、恋人のジェームズ(瀬川)に伴われニューヨークに戻ってくる。友人で編集者のリチャード(大河内)が若い婚約者のマンディ(森田)と共に見舞いに訪れ、その幸せそうな姿を見てジェームズはサラに結婚を切り出すが、ふたりの関係には徐々に変化が…。
第一幕のサラは頭に包帯を巻き、右腕は吊った状態で左足は添え木を当て、松葉づえを突いている。移動さえままならない自身の現状や戦場とかけ離れた日常の能天気さへの怒りからか、どこかピリピリしたサラを中越が見事に体現しており、ちょっとした口調や表情からその心情が伝わってくる。
物語はアパートの部屋のみで展開し、負傷を抱えるサラをはじめ、登場人物は決して舞台を激しく動き回るわけでもなく「役者の比重が大きい芝居」(宮田)である。
自らも記者ゆえサラの仕事に理解は示すが、戦場でのトラウマを抱えるジェームズ、バランス感覚と包容力を持った年上の理解者・リチャードと周囲の人物も魅力的だが、極めつけはマンディ。無知で能天気な彼女の「戦争は終わらない」「私たちに何ができるの?」といった言葉はサラをイラつかせ、その絶妙な掛け合いに稽古場は笑いに包まれる。だが、あっけらかんと発せられる彼女の言葉は、世の多くの人々の心情を代弁しており、サラ、そして観る者に鋭く突き刺さる。
傷が癒えたら再び戦場に赴くのか? 幸せとは? とサラは自問する。戦場フォトグラファーという特殊な職業の女性を主人公にしているが、宮田は「男は、強い社会性(=仕事による社会との繋がり)を持ってしまった女を妻に出来るのか?」という現代日本に通じる普遍的な問題を描いていると語る。実際、彼らの会話によく耳を傾けると、ジャーナリズムとは? といった高尚な内容ではなく、実はどこにでもいるカップルのごく普通の愛憎のやりとりだったりする。
最後にサラが下す決断は? 奇しくもイラクの政情不安が報じられる一方、国内では都議会でのヤジ問題に端を発し女性の社会進出が大きく取り上げられている昨今。身近な、しかし深い問いかけを含んだ作品になりそうだ。
『永遠の一瞬 -Time Stands Still-』は東京・新国立劇場小劇場にて7月8日(火)より上演。
取材・文、撮影:黒豆直樹
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