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ベトナム戦争を背景にしたミュージカル『ミス・サイゴン』。引き裂かれる恋人たちの悲恋や、子を思う母の愛、戦争で傷ついた魂を癒す妻の愛…様々な人間模様が複層的に描かれていく群像劇だが、魅力的な登場人物が多数いる中でカーテンコールの最後に登場するのは、混乱の中したたかに立ち回っていく男、エンジニア。1992年の日本初演からこの役を演じ続けている市村正親とともに今年、エンジニア役に初抜擢されたのが駒田一だ。市村の休演発表を受け、しばらくはひとりでこの大役を務めた(現在は筧利夫が同役に加わっている)。彼が現在抱いている『ミス・サイゴン』への思いや、市村から託されたものについて、話を訊いた。
オーディションに挑むこと3度目で、この役を掴んだという。「正直、『ミス・サイゴン』という作品に…というより、“エンジニア”という人物に惹かれていました。彼は嘘つきで、生き延びるためには悪いことでもなんでもやる。生き延びたいという欲望に対して、正直。たまらなくそこが魅力でした。いつかやりたいと思っていて、受けてみようと思ったのが40歳を超えたころ。そして3回目・50歳にしてやっと、この役をいただきました」。もともと市村とは共演経験も多く、プライベートでも仲がいい。「合格のご報告をメールでしたら、すごく喜んでいただきましたよ。お前はお前のエンジニアを作ればいいよ、でも良かったなぁ、って」。
そんなエンジニア役の先輩である市村の休演という事態をどう受け止めたのか。「市村さんご自身が、みんなの前で話をしてくれました。驚きましたが…「コマ、頼むね」という一言をいただいて、頑張ろう、と思いました。筧さんも仰っていましたが、『ミス・サイゴン』を守り続ける、いい芝居をして作品の評判を良くしていくということが市村さんの特効薬になる」。その発表後、彼は4日で7ステージをひとりで乗り切った。もちろん大変だっただろう。だが「意外と冷静でした、落ち込んでいてもしょうがないし」と涼しげな表情で言う駒田。「すべての方がバックアップしてくれたので、思う存分甘えさせてもらいながら、舞台に立てました。それに、市村さんはミスター・サイゴンで、ミスターエンジニアなんです。でも、僕は僕のエンジニアを作るしかない。市村さんが築いてきた『ミス・サイゴン』の歴史を引き継いでいかなければ」。力強い決意をさらりと言うところに、駒田の人柄がにじむ。
そんな駒田が作るエンジニアはどんな男なのだろうか。「“嘘をついていることを正直にやっている”という考え方でしょうか。彼はベトナムの一市民で、この時代こんなヤツはごろごろしている。そういったヤツらの代表だと思っています」。欲望むき出しに生きる駒田エンジニア。その魅力をぜひその目で確かめてほしい。
公演は東京・帝国劇場にて上演中。東京公演は8月26日(火)まで。チケットは発売中。その後新潟、愛知、大阪、福岡、神奈川でも上演される。
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