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江戸川乱歩の原作を三島由紀夫が戯曲化し、その三島自身が熱望したことから実現した美輪明宏主演の『黒蜥蜴』。三島由紀夫生誕90年、没後45年にあたる今年、再演を重ねてきたこの代表作に、美輪はどんな思いを込めるのか。三島との思い出話など、美輪からこぼれる言葉は尽きなかった。
舞台での初演は1969年。その前年に公開された映画は世界でも評判を獲得した。以来、『黒蜥蜴』といえば美輪のほかになくなった。「三島さんからは、黒蜥蜴を演ってほしいと3度も頼まれたんです。私が出演した寺山修司の『毛皮のマリー』をご覧になって、“あの難解なセリフを、まるで歯ブラシでも使うように日常の言葉として成立させていた。僕の芝居といえばみんな気取って難し気に演じるけれど、君なら内容を解り易く演れるはずだ”と。確かに、三島さんのセリフもレトリックがすばらしく、美しい言葉がいっぱい出てきますから、それをきちんと表現し、伝えるのは、なかなかむずかしいことだと思います」。
美しいのはセリフだけではない。演出・美術・音楽・衣裳も手がける美輪は、この耽美的な世界観をすべてにおいて追求してきた。「三島さんのセリフに合うのは、ドビュッシーなどフランスの印象派の音楽か、東欧のもの。衣裳も裾の長い本格的イブニングドレスを身につけなければ、本物を知る女賊の黒蜥蜴にはなれません。セットや照明も同じです。その世界を成立させるために綿密に作り上げていきますし、そのための知識や技術がなければ舞台は作れないんです。ですから、今一度、こういった正統派の舞台を見直してみるのも必要だと思います。そこでなければ得られない感動や癒し、安らぎというものがあるはずです」。
美輪が演じる黒蜥蜴は、明智小五郎と対峙し、やがて愛していくことになる。明智を演じるのは2度目となる木村彰吾。そして、黒蜥蜴の愛人・雨宮には、木村と同じく『花子とアン』で注目を集めた中島歩が再び挑む。「『花子とアン』では、『ごきげんよう』という美しい言葉が話題となりました。この『黒蜥蜴』の美しい世界も、ぜひ若い方にご覧になっていただいて新鮮な感動を味わっていただければと思うんです。早替わりも多く、体力的にはとても厳しい作品なんですが、80歳の黒蜥蜴も面白いんじゃないかと思っています(笑)」。その笑みに、まだまだ作品を向上させようとする覚悟が見える。美輪にしか成し得ない『黒蜥蜴』を、心待ちにしたい。
舞台は4月4日(土)から19日(日)まで東京・新国立劇場 中劇場にて。その後、愛知、大宮、神奈川、静岡でも公演。
取材・文:大内弓子
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