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2014年に日本初演され、高い評価を得た韓国発のミュージカル『ブラック メリーポピンズ』が、新ヒロインに中川翔子を迎えて再演される。登場人物は、かつて心理学者グラチェン博士の豪邸に住んでいた4人の養子たちと、家庭教師メリー・シュミットの5人だけ。豪邸の火事から12年後、当時の記憶を失くしている4兄妹が久々に再会し、事件の真相を探るうちに衝撃の事実に辿り着く心理スリラーだ。初日を約3週間後に控えた稽古場を訪れると、演出の鈴木裕美と振付の小野寺修二のもと、再演とは思えないほど丁寧な稽古が繰り広げられていた。
中川と兄役の小西遼生、良知真次、上山竜治が取り組んでいたのは、クライマックスとも言えるシーンの振付稽古。小野寺によって、“ミュージカルのダンスシーン”と聞いて通常思い浮かべるような華やかなダンスとは一味も二味も異なる、役の心理と密接に結び付いた繊細な振付が施されていく。それだけに、体の動かし方とその意図については、小野寺だけでなく鈴木からも細かい指示が。「この時点で4人は大人だが魂は子どもで」(鈴木)、「“他者との戦い”をイメージして」(小野寺)といったハイレベルな要求に、小西は頻繁に質問を投げかけて都度確認しながら、良知は黙々と繰り返しながら、上山は失敗を恐れず様々な動きを試してみながら応えていく。
小西が思わず「前回より相当キツい!」と苦笑いするほど、初演から続投の3人にとっても難しい振付に、初参加で、しかも初ミュージカルとなる中川も必死に食らいつく。小野寺と鈴木の説明に、こぼれ落ちそうに大きな瞳を見開いて真剣に耳を傾ける一方で、「どのぐらいのテンションでいたらいいんですか?」などと積極的に尋ねる姿が印象的。また、このシーンで主に歌っているのが中川演じるアンナであることから、時には中川のアカペラの歌声に合わせて稽古が進む一幕も。軽く歌っているだけでもきれいにビブラートが効いたその歌声は、新たなミュージカル女優誕生を予感させるに十分だ。
そうして稽古すること約2時間、台本にして4ページ弱のシーンがようやく形になり、いよいよ通してみることに。本番さながらのピアノ伴奏がついて回転舞台が廻ると、キャストにもスイッチが入り、和やかだった稽古場に緊迫感が満ちる。兄妹のなかに封印されていた過去の記憶が蘇ると同時に、見ていたこちらのなかにも初演でこのシーンを観た時の衝撃が生々しく蘇り、胸が苦しくなった。この衝撃が、力強い一篇のミュージカルに昇華された舞台に再び会える日まで、あとわずかだ。
東京公演は5月14日(土)から29日(日)まで。その後、兵庫、福岡、愛知でも公演。
取材・文:町田麻子
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