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新国立劇場の2016-17シーズンを締めくくるのは、新制作《ニーベルングの指環》の第3作《ジークフリート》。ワーグナー演出の名匠ゲッツ・フリードリヒ(1930〜2000)が晩年にフィンランド国立歌劇場で制作したプロダクションだ。初日を目前に控えた5月29日に行なわれたゲネプロ(ゲネラルプローベ=舞台上で行なわれる最終総稽古)を観た。
英雄ジークフリートがいよいよ登場するこの演目。傍若無人な悪ガキのジークフリートが、愛と怖れを知る青年へと成長してゆくという一直線のストーリーが軸にあるため、《指環》全4演目のなかで格段に理解しやすい作品となっている。登場人物が7人と簡潔なのも、わかりやすさを助けてくれる(7人以外に、森の小鳥も登場。今回この役がちょっとトリッキーなので、そこは観てのお楽しみ)。
もはや懐かしい《ラインの黄金》の地下世界ニーベルハイムや、《ワルキューレ》の最後でブリュンヒルデを炎に包んだ岩山、その前2作の(特に《ラインの黄金》の)登場人物らも現れて、《指環》4部作全体の連関を鮮明に際立たせてゆく。それらに伴って聴こえてくるライトモティーフも、作曲者の自己満足的な隠しアイテムとしてではなく、物語と有機的なつながりをもって、観る側の理解を助けてくれる。その一番の成功例がこの《ジークフリート》だろう。
聴きどころは何といっても主役ジークフリートを歌うステファン・グールドだ。ワーグナー作品の花形である「ヘルデン(英雄)テノール」の中でも屈指のハードな難役を、第1幕から全開でカッコよく歌う姿には惚れ惚れとする。リハーサルといえども声をセーブしようという気配など微塵もない。そんなことを言っている歌手にはこの役は歌えないのかもしれない。4時間近くも主役で歌い続けた挙句に、休養十分のブリュンヒルデ(なにせ十数年間の眠りから醒めたばかりだ)を相手に延々と愛の二重唱を歌わなければならないのだから。それを苦もなく聴かせるグールドの、まさに無尽蔵のスタミナ。
そのブリュンヒルデのリカルダ・メルベートは、「かつて神の戦士だったが、現在は神性を剥奪された女性」という役柄にふさわしく、硬質ガラスを思わせる、繊細な、しかし強い表現を聴かせる。ドラマティックな面だけがブリュンヒルデではないのだ。
さえない悪役であるミーメは、《ジークフリート》では前半の主役級だ。性格俳優的な役柄だが、《ラインの黄金》でも同じ役を歌ったアンドレアス・コンラッドは、キャラクターに振りすぎない立派な美声で、意外と多いミーメ・ファンも納得の、十分な存在感を示していた。
公演は6月1日(木)・4日(日)・7日(水)・10日(土)・14日(水)・17日(土)の全6回。上演時間は2回の休憩を含めて約5時間40分。長丁場だけれど、万全の体調で臨もう!
取材・文:宮本明
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