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ラストシーン、舞台が暗転した瞬間に、待ちきれないような大喝采が会場を包む。演劇集団キャラメルボックス『スロウハイツの神様』が、7月5日、東京・サンシャイン劇場にて開幕した。
原作は、辻村深月の同名人気小説。アパート“スロウハイツ”を舞台に、オーナーである脚本家の赤羽環と、住人である小説家チヨダ・コーキ、そして友人たちの共同生活が描かれてゆく。
10年前、自分の小説を模した集団自殺事件が発生し、インタビューで答えた言葉がきっかけでバッシングを受けたコーキ。休業を経て復活したコーキと知り合った環は、スロウハイツでの生活にコーキを誘う。すでに活躍している環とコーキ以外は、画家、漫画家、映画監督と皆クリエイターへの夢を持つスロウハイツの住人たち。そこへ小説家志望の少女・加々美莉々亜が新たに加わったことから、少しずつその生活に変化が現れる……。
原作は文庫本で上下2巻という大ボリュームで、群像劇の側面が強い。今回2時間の舞台にするにあたり、脚本・演出の成井豊が取った方法は、物語の主軸となっている「赤羽環とチヨダ・コーキ」のエピソードを中心にする、というもの。序盤こそただの住人同士に思える環とコーキだが、徐々にふたりがどういう関わりを持っていたか、莉々亜は何者か? などさまざまな謎が明かされてゆく。
ふたりのドラマに焦点を絞ったことで、ミステリー的要素を解き明かす楽しさもより強調された印象だ。特に些細なセリフが伏線になっていたことが一気に明かされ、環とコーキの“本当の過去”が判明する終盤のカタルシスは凄まじく、劇場のあちこちからすすり泣きが聞こえるほど。観終わった後に「もう一度観たい」と思う人も多いのではないだろうか?
また、この作品の登場人物は皆、過去に傷を負ったり、何かしらの秘密や葛藤を抱えている。そのエピソードはときに重く、人間臭く、苦さを残すものもある。しかしシリアスなエピソードの中でも、俳優たちが見せるコミカルな場面がフッと心を軽くしてくれるのは、舞台版ならではの強みと言えるだろう。
劇中で、チヨダ・コーキの作品は中高生は夢中になるが、大人になるといつしか手に取らなくなる「いつか、抜ける」ものである、ということが強調される。そしてコーキ自身もそれを良しとしている、と。
でも、たとえ作者自身がそう思ったとしても、作品に救われる人は確かに存在する。そして想いは“届き”、新たなバトンを紡ぎ続ける……そんな希望に満ちたラストシーンに、エンターテインメントにこだわり続けてきた劇団の矜持が、どこか重なる。この作品は、「創作物」を愛するすべての人へのエールでもあるのだ。
公演は7月16日(日)まで、東京・サンシャイン劇場で上演される。
取材・文:川口有紀
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