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10月1日(火)、新国立劇場の2019/2020シーズンは、チャイコフスキーの『エウゲニ・オネーギン』で開幕する。刺激的な演出が話題のモスクワ・ヘリコン・オペラの創設者ドミトリー・ベルトマンによる新制作のプロダクションだ。リハーサルは9月初旬にスタート。その初日、ベルトマンが、スタッフ・キャストに演出コンセプトを説明する機会に立ち会った。
『エウゲニ・オネーギン』を手がけるのはこれが9回目だというベルトマン。「若い頃はとにかくみんなを驚かせようとしてばかり。氷の世界の物語にしたり、タチヤーナとオネーギンのベッド・シーンがあったり。でも年齢とともに、そういうものは必要ないのだとわかってきました」と笑う。
チャイコフスキーというと、叙情豊かでメランコリックな音楽が特徴だが、彼は、チャイコフスキーはもっと情熱的なのだと力説する。「わたしの目指すチャイコフスキーの音楽は、情熱的な真っ赤な色をしています。この作品も情熱にあふれたオペラだということを伝えたいと思います」
そしてストーリーを追いながら、登場人物のキャラクター分析やドラマの背景を彼自身の視点から説明する。「最初のシーンだけちょっと説明して、すぐ稽古に入りますから」と言って始まったのが、ときに一人二役でオーバー・アクションで歌ってみせるなどの「熱演」を交えながらたっぷり40分以上。熱い人だ。「結末は血がほとばしるような悲劇です。幕開けはコミカルに始まって最後はものすごい悲劇で終わる。そういうコントラストをつけて演出したいと思います」
今回、舞台上には、全幕を通して、古代ギリシャ風の4本の円柱が置かれている。これは、モスクワ芸術座の創始者で、ロシアの現代演劇の礎を築いたコンスタンチン・スタニスラフスキー(1863〜1938)の自宅内にあった、「オネーギン・ホール(オネーギンの間)」と呼ばれる小劇場を再現したもの。スタニスラフスキーはそこで1922年に『エウゲニ・オネーギン』を上演しているのだ。この上演こそが、ロシアのオペラ演出の先駆けと位置づけられているそうで、その1922年版をモチーフに、「時代に合わせ、わたしたちの演出を自由に行う」という、新たなプロダクションとなる。
題名役オネーギンには、世界の主要劇場でこの役を当たり役にしているワシリー・ラデューク(バリトン)。そして題名役以上に重要なヒロイン、タチヤーナには、 2017年に、センセーショナルなザルツブルク音楽祭デビューを飾った注目のエフゲニア・ムラーヴェワ(ソプラノ)。制作チームにもロシアから来日したスペシャリストたちが揃った。ロシア・オペラを知り尽くした彼らが、そのノウハウを結集して作り上げる舞台。充実のシーズン開幕が待ち遠しい。
取材・文:宮本明
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