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音楽と物語、声と演技が合致した極上の喜劇オペラ
2019年11月11日 16時10分 [オペラ・声楽]
「ドン・パスクワーレ」舞台写真より <撮影:寺司正彦 提供:新国立劇場>
「ドン・パスクワーレ」舞台写真より <撮影:寺司正彦 提供:新国立劇場>

じつに楽しく、面白く、そして素晴らしい、出色の出来栄えの上演だ!

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新国立劇場の《ドン・パスクワーレ》が11月9日に初日を迎えた。ドニゼッティ晩年のオペラ・ブッファ(喜劇オペラ)。人気や知名度でこそ、《愛の妙薬》や《ルチア》に一歩譲るかもしれないが、魅力的な旋律が、これでもかとばかりに惜しげもなく次々に繰り出される、完成度高い音楽。ドニゼッティの作品のなかでも破格の傑作なのだ。

「悪人」はひとりも出てこない。大金持ちだが家族のない老人ドン・パスクワーレは、主治医のマラテスタが連れてくる花嫁候補を待ちかねている。甥のエルネストに、高貴で裕福な女性と結婚するのなら財産を譲ると申し出ていたのだが、ノリーナという若い未亡人の恋人がいるエルネストが拒んだため腹を立て、自分で結婚して跡継ぎを作ることにしたのだ。ところがマラテスタが自分の妹と称して連れてきたのが、そのノリーナ。若いふたりの恋を成就させるためのマラテスタの計略だ。貞淑な女性を装うノリーナにたちまち夢中になったパスクワーレは結婚を即決。しかしその途端、ノリーナは贅沢三昧の浪費を始めるわ暴力をふるうわ、挙句は浮気するわの悪妻に豹変。これはたまらぬと、彼女を追い出すため、パスクワーレがふたりの結婚を認め、正体を明かしたノリーナも許して、めでたしめでたし。悪女となったノリーナに振り回されるパスクワーレは、気の毒なのだけれど抱腹絶倒の喜劇の見せどころ。

歌手たちはいずれも水準が高い。そしてそれだけでなく、キャスティングの巧みさに唸らせられる。パスクワーレ役のロベルト・スカンディウッツィのノーブルで深いバスは、ちょっと頑固だけれど悪意はない金持ち老人の孤独な悲哀を巧みに表現する。まじめな人がまじめに騙されるからこそ喜劇。コケティッシュな魅力を振りまきながら、高音の超絶技巧をこともなげに繰り出す新星ハスミック・トロシャンのノリーナには誰もが夢中になるはず。そしてエルネスト役のマキシム・ミロノフの甘いベルカント・テノール、マラテスタ役のビアジオ・ピッツーティの輝かしい声と切れ味ある演技。主要人物たちのキャラクターが声質でも明確に描き分けられているから、各アリアはもちろん、重唱の魅力や面白さが際立って聴こえてくる。

ステファノ・ヴィツィオーリの演出は、1994年にスカラ座で初演された定評あるプロダクション。機械仕掛けの舞台転換を目の前で見せる趣向で、ノリーナの登場シーンで、彼女が座るソファが音もなく迫り出てくる仕掛けはイリュージョン。

細部まで念が入っている。第3幕で、戸外から(つまり舞台裏から)聴こえてくるエルネストのセレナータのギター伴奏のひとりは、なんと人気ギタリストの村治奏一。ほんの5分ほどの、しかも舞台裏での出番に、なんて贅沢な起用! いいなあ。

新国立劇場の《ドン・パスクワーレ》は11月17日(日)まで。絶対におすすめ。

取材・文:宮本明

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