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ミュージカルの魔法がかかる『ゆびさきと恋々』
2021年05月26日 15時00分 [ミュージカル・ショー]
撮影:遠山高広

ミュージカルと手話との、素敵な出会い。
そう感じた「A New Musical『ゆびさきと恋々』」の公開稽古。主人公は耳の聞こえない雪(豊原江理佳)。声を交わせない雪たちは、大切な人やモノへの心情を歌う。会話はないけれど、歌が重なり、人と人の思いが交差しあっていくことで、繊細に雄弁に表現される。

稽古では、劇中歌『わたしの手・あなたの手』を披露。手話を交えた振付は、まるで言葉をダンスにしたようで、伝えたい思いがまっすぐに届いてくる。手が、人と人を繋ぐ。言葉は交わさなくても、指先で触れると、相手のことがわかる。手話(動き)とミュージカル(歌)の相乗効果で、登場人物たちの気持ちがより強く、全身で表現されていく。

豊原は、作品に関わる前は「声を出せないのは不自由なんだなと感じていた」という。けれども今は違う。動きや表情や視線を丁寧に演じる。共演者で、雪の大学の先輩・逸臣を演じる前山剛久は「この作品をミュージカルにすると聞いた時には『映像の方が良いのでは?』と思ったが、心の声を表現できるミュージカルという形でやることにすごく意味があると思った」と自信を見せる。コロナ禍での上演もふまえ「僕は、医療は病気を治す仕事で、芸能やエンタテインメントは心を治す仕事だと思っていて。楽しいことがなければ生きていけない」と吐露し、「芸能って必要なんだよ、と伝えたい」と力を込めた。

原作は、純粋な登場人物らを応援したくなる恋愛漫画。読んでみて「心の栄養いただいた」(上山竜治)、「ピュアな自分に戻れる時間」(青野紗穂)と、稽古場に柔らかい空気が流れる。そのうえで舞台版について、豊原は「マンガはキュンキュンした。でもやってみるとこうもマンガと現実は違うのかと」と難しさを感じている。しかし出演者らは「人間が演じることで身近に感じていただけたら」(池岡亮介)と、「雪が自分の力で世界を広げていく様子に、希望と、勇気と、本当にたくさんのものを(もらえる)。個性豊かで、魅力的な、人間味あふれるキャラクターに注目を」(林愛夏)と、「ミュージカルは心の声を歌にできる魔法」(上山)と、生身の人間が演じることの見どころを語った。

演出の田中麻衣子の「原作を大切にしたい」との言葉より、漫画の魅力を大事にしたうえでのミュージカルである可能性に期待が高まる。

公演は6月4〜13日、東京・本多劇場にて。

取材・文/河野桃子

チケットぴあ

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