因縁の対面は実現しなかった。大相撲秋場所(9月9日初日)を控えた28日、十両以上の関取衆による力士会が東京・両国国技館で開かれ、幕内貴ノ岩(28=貴乃花)に対する傷害事件で昨年11月に現役を引退した元横綱日馬富士(34)が出席し、9月30日に国技館で行う引退相撲への協力を要請した。その一方で、事件の被害者となった貴ノ岩は力士会に姿を見せず。当事者同士の“溝”が浮き彫りとなった。

 この日の日馬富士は羽織はかま姿の正装で力士会に出席した。引退相撲には現役力士による取組が欠かせない。事前に力士会の場であいさつをして協力を求めることが慣例になっている。力士会出席後には報道陣の取材に応じ「(関取衆の)皆さんに長い間お世話になって感謝の言葉をかけてきました。引退相撲をさせていただくことを報告して、協力をお願いしました」と話した。

 また、突然の引退からこれまでの心境を振り返り「また前を向いて。真っすぐ、前向きにいくことを考えた」と神妙な表情を浮かべた。

 現在は現役時代に所属した伊勢ヶ浜部屋のコーチに就任。7月の名古屋場所では部屋の千秋楽パーティーに出席し、8月24日から新潟・弥彦村で行われた夏合宿にも参加するなど精力的な動きを見せている。

 日馬富士の要請に対して、力士会の会長を務める横綱鶴竜(33=井筒)は「もちろん協力します。(関取衆の)皆で拍手をしました」と快諾。そうした中で、傷害事件で被害者となった貴ノ岩は力士会には姿を見せなかった。欠席の理由は不明。先の夏巡業は皆勤するなど、体調面に大きな不安は見当たらない。先場所前の力士会には出席していただけに、日馬富士と顔を合わせることを回避した可能性もある。

 貴ノ岩は名古屋場所で十両優勝。今場所の新番付では、暴行被害を受けて全休した昨年11月の九州場所以来、5場所ぶりに幕内復帰を果たした。完全復活へ向けた再出発となる場所前に、わざわざ“トラウマ”を呼び起こさなくてもいいということなのか…。

 秋場所後の日馬富士の引退相撲に関しても、角界関係者の間では「貴ノ岩が出ることはないだろう」と今からささやかれている。貴ノ岩が欠席した理由は別にして、事件後の現在も当事者の間で和解するムードがないことは確かだ。同じモンゴル出身で、かつては親密な時期があったとも言われる2人の“溝”は埋まらないままなのか。