【楊枝秀基のワッショイ!スポーツ見聞録】阪神の2021年度コーチ陣容の中でキーマンとなるのは二軍から異動した北川博敏一軍打撃コーチ(48)だと、私はみている。同コーチの現役時代、近鉄でキャリアハイの成績を残した04年シーズンを取材したからこそ、それが言える。

 北川コーチは1994年ドラフト2位で阪神に入団。打力のある捕手として期待されたが、阪神では満足いく成績を残せなかった。だが、01年の近鉄へのトレードを機に開花。同年9月26日の対オリックス戦代打逆転サヨナラ満塁優勝決定アーチは語り草だ。

 思い切りがいい。勝負強い。そういうイメージを持たれがちだが、実はそれだけではない。近鉄時代、打撃コーチだった正田耕三氏は「練習でやったことを試合で出せるタイプ。代打出場でも場面、対戦相手など頭に入れ冷静に準備ができる。状況に応じて右にも打てるし。足は遅いけど(笑い)」と評価していた。

 阪神時代はレギュラーをつかめなかった。注目球団で大卒ドラ2とあって、即戦力と期待される重圧も味わった。00年には当時の野村監督の息子で同じ捕手のカツノリが加入。シーズン7打席しか立てない憂き目もみた。そんな苦労を重ねたからこそ、状況観察力と準備する忍耐力が強化されていった。

 そして、内野手転向1年目の04年は正一塁手の吉岡雄二(現日本ハム二軍打撃コーチ)が、オープン戦で故障離脱したこともあり、開幕スタメン。アテネ五輪で主砲の中村紀洋が抜けると「僕は僕なんでノリみたいなバッティングはできませんよ」と謙遜しながら、しっかり4番も務めた。

 球団合併問題もあり集中できない環境だったはずが、初のフル出場で打率3割3厘、20本塁打、88打点。チームの中心打者の地位をつかんだ。

 指導者となってからの評価も高かった。17年から3年間ヤクルトの二軍打撃コーチを担当した北川コーチは「村上は育ててませんよ」と笑うが、1年目の18年の指導が生きていることは事実。その後のブレークで手腕を評価され、ヤクルトに残留していれば20年は一軍打撃コーチに昇格予定だったという。

 今季は大山が主軸に成長。来季から加入するドラ1の近大・佐藤輝や2年目となる井上ら若虎も逸材揃い。阪神を内側、外側から知り、控えもレギュラーも経験した北川コーチ。そのエッセンスで、猛虎打線を豹変させることを期待したい。

 ☆ようじ・ひでき 1973年8月6日生まれ。神戸市出身。関西学院大卒。98年から「デイリースポーツ」で巨人、阪神などプロ野球担当記者として活躍。2013年10月独立。プロ野球だけではなくスポーツ全般、格闘技、芸能とジャンルにとらわれぬフィールドに人脈を持つ。