〝負の連鎖〟が止まらない。東京五輪・パラリンピックで開会式の楽曲制作を担当していたミュージシャンの小山田圭吾(52)が学生時代のいじめ告白問題で電撃辞任した。大会組織委員会の森喜朗前会長、開閉会式の演出統括を担当していたクリエーティブディレクターの佐々木宏氏に続き、キーマンが次々と姿を消す異常事態。大会コンセプトの一つである「多様性と調和」を当事者が踏み倒す行為に、パラリンピアンらの怒りも頂点に達している。

 東京五輪が開幕目前で再び大激震に見舞われた。小山田はサブカルチャー系雑誌「クイック・ジャパン」(太田出版)1995年8月号のインタビューで、障がい者のAさんに対し「みんなで脱がしてさ。(局部を)出すことなんて(Aさんには)別に何でもないことだからさ」などと自慢げに告白。他にも特別支援学校の生徒に対して暴言を吐くなど、日常的に障がい者蔑視発言を繰り返していたという。

 掲載から20年以上が過ぎたとはいえ、いじめ常習犯の大役起用にネット上では批判が相次いだ。当初、組織委側は続投の方針を示していたが、19日夜に小山田が自身のツイッターで辞任を表明。組織委は「多くの皆様に不快な思いをさせたこと、混乱を招いたことを心からおわび申し上げます」と謝罪した。

 2度あることは3度あるということか。森前会長は、今年2月に女性蔑視発言が原因で会長職を退いた。3月には、開閉会式の演出を統括する予定だったクリエーティブディレクターの佐々木氏が提起した、タレント渡辺直美の容姿を侮蔑する案が問題となり、辞任を余儀なくされた。そして、今回の3人目の降板劇…。

 ましてや、障がい者を差別していた人物がパラリンピック開会式に携わるなど言語道断だ。特別支援学校の教員は「差別する理由が分からない。何も見えていないし、障がいがあるからなんだって言いたくなる。もしあっても関係ない。辞任するだけじゃなくて、何がいけないのかを説明して反省しろ」と怒りをあらわにした。

 パラリンピアンにとっても許しがたい事態だ。42歳で仙骨巨細胞腫を発症し、車いす生活を強いられながらも、56歳で出場した2004年アテネパラリンピック以降、4大会連続で大舞台に立ったパラ卓球界のレジェンド、別所キミヱ(73=ドマーニ卓球クラブ)は「日本はどんな国なんだって思われてしまう。汚点ですよね。日本はそういう人ばかりだと思われてしまう。そこが残念。しかも普通のいじめとかじゃないですから」と苦言を呈した。

 かねて障がい者への理解度に関しては、多くのパラアスリートから「日本と世界の差」を指摘する声が聞かれる。別所も「昔は上から目線の人もたくさんいて、車いすの人は家にいたらいいという考え。フタをする感じ。昔から日本は独特の感じがある。海外とは全然意識が違う」と訴えた。

 その上で、小山田がSNSでの謝罪のみで幕引きを図ろうとする姿勢も疑問視。「ツイッターの謝罪だけで済ますのは大人としてどうかと思う。いろいろ言われて質問されたくないのかもしれないが、ただひと言でもいいので話す必要があると思う」と訴えた。

 こうしたパラリンピアンたちの怒りの声は、本人にも大会組織委員会にも届いていたはず。辞任は当然の結果と言える上に、発言を自分の言葉で説明することも強く求められている。

 ただでさえ問題山積の東京五輪は、開会式4日前のキーマン辞任でさらなる大混乱に陥った。