あっと驚く人選だった。東京五輪開会式の聖火リレー最終ランナーとして女子テニスの大坂なおみ(23=日清食品)が登場。聖火を手に競技場中央に出現した階段をゆっくり上って聖火台に火をともすと、満面の笑みを浮かべた。

 五輪最大の栄誉とも言われる大役。大会前の予想では冬季五輪2連覇のフィギュアスケート羽生結弦(ANA)、元大リーガーのイチロー氏らの名前も挙がっていたが、ふたを開けてみれば2日後に試合を控える現役アスリートという超異例の抜てきとなった。

 大坂は自身のSNSで「間違いなく私の今までの人生で最大の功績と栄誉だった」とつづった。開閉会式のエグゼクティブプロデューサーを務める日置貴之氏は「日本を代表するアスリートでもありますし、彼女は非常にいろいろなメッセージを出して、やっぱり最もふさわしい最終走者だと思いました」と説明。さらに「ジェンダーバランス等も考慮しながらつくってまいりました」と付け加えた。

 世界中に大きな影響を与える強い女性――。世間からの逆風にさらされている組織委が起死回生のイメージアップを図る思惑も見え隠れするが、この「ジェンダー平等」の流れをつくったのが組織委の森喜朗前会長に他ならない。

 今年2月、森氏は「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかる」と女性蔑視発言。世界中からのバッシングで辞任を余儀なくされ、結果的に組織委はここから大きく評判を落とした。当時、大坂は森氏の発言に対して「無知から生じた発言」と痛烈なひと言を浴びせていた。それが、巡り巡って自身が「ジェンダー平等」の流れに乗って大役をつかんだのも何かの因縁か。

 5月の全仏オープンでは会見拒否騒動を起こし、その後に〝うつ状態〟を告白。完全復活を誓う今大会は開会式翌日の24日に1回戦が組まれていたが、関係者によれば組織委が大坂サイドに大役の依頼と合わせて「日程延長の了解」を打診したという。当初の日程を変更してまで、女王の起用にこだわった。そこまでして世界に顔が利く大坂に頼りたかったということだろう。