【取材の裏側 現場ノート】現役を引退した白鵬とのファーストコンタクトは、今から10年ほど前のことだった。当時の記者は大相撲担当になったばかり。東京・墨田区の宮城野部屋を初めて取材で訪ねると、朝稽古を終えた横綱の方から突然声をかけられた。

 白鵬「お兄さん、見ない顔だね!」

 記者「はじめまして。このたび新しく相撲担当になりまして…」

 白鵬「そうなんだ。お兄さんさ、相撲って簡単だと思わない?」

 記者「…」

 すでに当時の白鵬は優勝10回を超え、大横綱への階段を駆け上がっていた。かたや、記者は相撲に関してはズブの素人。まさかの〝逆質問〟に戸惑っていると、白鵬は次のような言葉を口にした。

「自分も(入門前は)バスケットボールとかやっていたけど、相撲の経験はなかったから。相撲は丸い土俵があるだけで、簡単そうに見えるんだよね。最初は自分もそう思った。でも実際にやってみると全然、簡単じゃなかった(笑い)。簡単そうなものほど奥が深い。だから、勉強するといいよ!」

 第一人者からの〝金言〟に感動するとともに、全く偉ぶるところがない姿が何とも好印象だった。その横綱は優勝回数を重ねるにつれ、当初の優等生キャラから、すっかりヒールへと変わってしまったが…。親方となってからは「素顔」が戻ってくると信じたい。

(大相撲担当・小原太郎)