歌舞伎俳優尾上右近(29)が、新選組を描いた「燃えよ剣」(原田眞人監督、15日公開)で初映画出演する。

歌舞伎、舞台、大河ドラマ出演と多彩な活躍をする右近だが、まっさらな気持ちで挑んだ。昭和の映画スター鶴田浩二さんの孫として、代表作リメークの夢も語った。

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撮影は2年半前に行われた。昨年5月の公開予定が延期されたがようやく公開となる。原田監督のもと、主演岡田准一はじめ人気俳優が並ぶ中、新選組を抱える会津藩主松平容保を演じた。「自分がいるのがうれしくて。抜てきに応えろよという思いで(作品を)見ました。お子さんがいる先輩たちが、子供の初舞台に緊張するような気持ちでした」と喜びを語った。

母方の祖父は、数々の映画に主演し、1987年に62歳で死去した鶴田浩二さん。期待やプレッシャーについては「僕は歌舞伎の世界に育ち、先輩たちとの関わりの中で生きてきました。鶴田浩二の孫と見られていたかもしれないけれど、気にせず新人俳優としてまっさらな気持ちで参加しました」と話した。

歌舞伎俳優として呼ばれた意味を考え続けた。「容保は新選組の背骨のような存在。剣を握る立場ではないので激しい動きはあまりないですが、存在感を感じてもらいたいと思っていました」と言う。

右近の熱意を、原田監督や共演者も感じてくれた。容保が、岡田演じる土方歳三、山田涼介演じる沖田総司と密会するくだりは、初めての泣きの場面だった。「帝からの手紙について話し尊い気持ちになって涙が出る、という特殊な涙。出会った人、尊敬する人、先祖のことを考え、曽祖父(6代目尾上菊五郎)の『鏡獅子』の映像を見て、できるだけ深いレベルの感謝を満タンにしました。その空気を岡田さん、山田さんが目で感じ受け止めてくれてうれしかったです」と振り返った。右近の演技を見て原田監督は、長回しで撮ることを決めたという。

岡田への思いも語った。追い込まれた容保を表現するため、右近は3日間絶食して臨んだが、演技に支障が出るほどふらふらになった。「僕が完全にフリーズした時、岡田さんがすっと助けてくださった。主役の方はありとあらゆる人とセッションし、作品を円の中に収める。すごい力だと思いました。途方に暮れるほどの尊敬のまなざしで岡田さんを見ていました」。

今後も映画に意欲を見せる。鶴田さんが活躍したようなヤクザ映画にも出たい。さらに「じいちゃんの作品をリメークできたら最高です。自分がやる意味がある。『次郎長三国志』シリーズを歌舞伎化して、同時に映画でリメーク。歌舞伎と映像を行き来できたらいい」と夢を語った。【小林千穂】

○…映画初出演を周囲も応援してくれている。尾上菊五郎については「いつも『やりたいことをやればいい。しくじった時には責任をとる』と言ってくれる大きな存在」とし、尾上菊之助、中村勘九郎、尾上松也も背中を押してくれたという。歌舞伎で市川中車として活躍する香川照之には、食事をしながら報告した。右近は「『空気を感じることが大切』というアドバイスがすごく大きかったです。大事な手の内をいくつも教えてくださいました。僕もいつか歌舞伎で恩返ししたい」と話した。

◆尾上右近(おのえ・うこん)1992年(平4)5月28日生まれ。音羽屋。立役も女形もつとめる。歌舞伎舞踊の伴奏と唄である清元の7代目清元延寿太夫の次男。曽祖父は6代目尾上菊五郎。00年「舞鶴雪月花」で初舞台。7代目尾上菊五郎のもとで役者修行を積み、05年「人情噺文七元結」などで2代目右近を襲名。18年2月、7代目清元栄寿太夫を襲名、清元としても活動。スーパー歌舞伎2「ワンピース」のルフィで注目。今年2月開始のNHK大河ドラマ「青天を衝け」では孝明天皇を演じた。