終戦後も30年間フィリピンで任務を遂行し続けた旧日本軍兵士の小野田寛郎さんを描いた映画「ONODA 一万夜を越えて」(アルチュール・アラリ監督)が8日に公開された。メガホンを取ったのはフランス人のアルチュール監督。東京・東麻布にあるフランス大使館で公開直前の記者会見が開かれ、取材した。

小野田さんは終戦を知らされず、30年間もフィリピン・ルバング島のジャングルに潜伏していた。小野田さんが生きているのではないかという情報がもたらされ、日本政府は1972年10月に、大捜索隊をルバング島に送り込み、2カ月半も捜索したが見つけられなかったという。その翌年の2月、1人でテントにいた冒険家の鈴木紀夫さんに、小野田さんは声をかけたという。それも、2日間にわたり、鈴木さんを観察して、日本人じゃないかと判断したという。日本の大捜索隊が見つけられなかったことがわかる、用心深さだ。

そして、小野田さんは鈴木さんに「上官が任務解除命令を出したら帰る」と伝えたことで、30年の時を経て、日本に帰国することになった。当時、少年だった私も、このニュースは脳裏に焼きついている。30年あまりの潜伏があっても、なお、上官の命令を待つという姿勢というか、精神に、少年ながらも、底計り知れない恐怖を感じた記憶が残っている。

今作は、今年のカンヌ映画祭の「ある視点」部門のオープニング作品に選ばれ、青年期の小野田さんを遠藤雄弥(34)、成年期を津田寛治(56)が演じている。

津田は「映画を見た方からは好評で、こんな日本兵は見たことがないと言われました。これまでの日本兵は悪役か、または、日本では大和魂といった点から描かれますが、今作はどちらにも属さない。現代の日本を生きる日本人のグルーヴ感とシンクロしていると思います」と語った。

映画を見ていないので、あまり多くは語れないのだが、出演者の語り口から察するに、1人の人間としての小野田さんが描かれており、それは、見る人に、人間とはなんぞやと問いかける作品になっているという。

撮影はカンボジアで行われた。同地はかつてはフランスの植民地で、終戦までは日本軍が占領した。そして、今作はフランス人の監督が製作。日本人の小野田さんを描いてくれたことに感謝したい。