声優界のレジェンドだった太田淑子さんが89歳で亡くなった。手塚治虫作品の65年「ジャングル大帝」のレオ、67年「リボンの騎士の」サファイアのほか、69年「ひみつのアッコちゃん」のアッコ、77年「ヤッターマン」のガンちゃんなど、日本のテレビアニメの草創期から第一線で活躍してきた。

太田さんは宝塚歌劇団出身で、同期には高嶋政宏・政伸兄弟の母寿美花代さんらがいて、娘役だった。在籍は5年ほどで、退団後は大阪放送劇団でラジオドラマなどに出演した。その後、上京してテアトル・エコーに入団した。エコーには「ひょっこりひょうたん島」の海賊トラヒゲの声などを担当した熊倉一雄さん、「ルパン三世」で知られる山田康雄さんらがいて、太田さんも声優としての仕事が主流になった。エコーは東京・恵比寿に小劇場を併設する自社ビルを持っているけれど、太田さんの貢献度も大きかっただろう。

女優としても、エコー公演で井上ひさし作品の「日本人のへそ」「表裏源内蛙合戦」やフランスの笑劇「ボーイング・ボーイング」などに出演するほか、映画、ドラマにも出演した。

私が太田さんの舞台を最後に見たのは2011年のテアトル・エコー公演「風と共に来たる」だった。名作映画「風と共に去りぬ」の製作秘話ともいえる舞台で、太田さんは映画プロデュ-サーの秘書役で出演した。プロデューサーと脚本家が激しい舌戦を繰り広げる中、太田さんのチャーミングで温かみのある演技が、男たちの戦いの緊張感を束の間和らげてくれたことを思い出す。

初演は09年夏だったが、その時に稽古場日誌のブログに、太田さんが夏バテ?のためうつぶせになって倒れている写真が掲載された。驚いて写真をよく見ると、太田さんが手を伸ばした先にはバナナがあった。ちゃめっ気のある人だった。

太田さんを知る関係者は一様に「仕事には全力投球。明るくて、優しい人でした」と言う。レオもサファイアも何事にも逃げず果敢に立ち向かう姿が印象的だったけれど、太田さんの快活でりりしさのある声がキャラクターをより深く膨らませていた。

夫の阪脩さん(91)も声優として活躍してきた。夫婦そろって声優という仕事に誇りを持ち、愛した。最後の仕事は16年に放送されたテレビアニメ「魔法つかいプリキュア!」の妖精の里のレジェンド女王。84歳まで現役を続けたレジェンドにふさわしい「遺作」だった。【林尚之】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「舞台雑話」)