今シーズン全試合出場を果たしたソフトバンク・甲斐拓也捕手(29)。長い球団の歴史の中で、捕手としては野村克也、城島健司(現球団会長付特別アドバイザー)に続く3人目だった。だが、本人はこの「全試合マスク」達成にふがいなさを痛感している。

 先月半ばまで参加した宮崎秋季キャンプで、鷹の正捕手に笑顔はなかった。今夏は東京五輪の金メダル獲得に貢献。「野球人生でこれ以上に緊張することはもうないだろうという中で戦った。だからチームに戻ってきてドッシリできた部分もあった」。五輪で得た財産を勝負の後半戦に生かすつもりだった。だが、チームは9月末に8連敗を喫するなど失速。打率2割台前半に低迷した打撃と合わせて捕手としての責任を背負った。

 チームは13年ぶりのシーズン負け越し、8年ぶりのBクラス転落。全試合出場を飾ったシーズンだからこそ、受け入れがたい4位フィニッシュだった。「チームの最終的な結果がすべて。全試合出場に関しては野村さん、城島さんに次ぐというのはまったく違う」。そう言い切ると、こう続けた。「たくさん迷惑をかけたし、チームが負け続けた時もあった中で、工藤監督が信用して出してくれた」。〝出してもらった〟という受け止めに悔しさがにじんだ。「グラウンドで恩返しをしようと、なんとか勝つようにと。その思いが強いのに結果が出ない。精神的にきつかった」。正捕手へと押し上げてくれた工藤前監督に〝有終ロード〟を用意できなかったことを悔いた。

 藤本新監督とは就任直後から積極的にコミュニケーションを取っている。「藤本監督の考えを知っていかないといけない」。高谷(現二軍バッテリーコーチ)が今季限りで引退。甲斐と〝第2捕手〟の差は開き、比重はさらに増す。来季こそ「全試合マスク」を誇れるシーズンにするべく燃えている。