眠れる天才が13年目の本気モードだ。広島・長野久義外野手(37)が16日、マツダスタジアムで契約更改交渉に臨み、4500万円減の1億2000万円でサイン。不甲斐なさと出場機会への飢えがハートに火をつけた。カープ4年目の来季は、鈴木誠也のメジャー挑戦で手薄となる外野レギュラー奪取、さらには2011年以来の「首位打者返り咲き」をぶち上げている。

 広島3年目の今季はプロ入り後最少の71試合の出場にとどまり、打率2割1分6厘、2本塁打、13打点と、いずれも自己ワースト。巨人から移籍後2019年は2億2000万円だった年俸が、3年で額面1億円の大ダウンだ。

 長野の表情は終始、神妙。「やっぱり個人的な成績も申し訳なかったのもありますし、鈴木さん(球団本部長)からも、『まだまだやれるし、頑張らないと』と言葉をかけてもらった」と明かした上で「試合に出ないとおもしろくないし、勝たないとおもしろくない」と珍しく強い言葉を用いて意気込みを示した。

 今季はベンチを温め、仲間を鼓舞する役目に回ったが、本来は誰より出場機会へのこだわりが強い選手。会見の言葉を聞き、数年前のやり取りを思い出した。「プロ野球で一番価値がある記録って、何だと思いますか?」。右ひじと右ひざをダブル手術した巨人時代の2014年オフ、こんな逆質問を受けた。

 考えを巡らせていると、長野は即座に「フル出場ですよ」と口を開き、「五体満足でやってるプロ野球選手なんていないんです。143試合出続けるってことは、見ている側以上に本当に大変な事なんですよ。僕としては、痛いかゆい顔しないで、そこ(グラウンド)に立ち続ける選手でありたいですね」と矜持を語ってくれたことがあった。

 ただ手術の影響は大きく、その後数年間に渡って長野を苦しめた。首脳陣には極力隠したが、遊離軟骨を除去したひじは気温が下がると痛み、ひざは水がたまって歩けないほどの状態となることも。毎年一定以上の数字こそ残したが、「フル出場」に耐えられなくなっていたのは確かだ。

 広島首脳陣にも故障の印象があったのか、移籍後はより〝ベテラン扱い〟が目立つようになった。だが、こうした気遣いは不幸だった。本人によれば、体の状態は巨人時代に比べれば劇的に回復。天然芝球場本拠の効果もあってか、むしろ「年々、若返っている」という。

 この日はゴルフで350ヤード飛ばす25歳のルーキー・末包に対抗心を燃やし、「僕もそれくらいの時だったら400くらいは飛ばしてたから」と軽口を叩いたが、肉体の窮地を脱した以上「まだ負けるはずがない」というプライドの表れだろう。

 今オフの契約交渉では出場機会を巡り、長い議論が交わされた。長野の思いをくみ取った鈴木球団本部長は後押しを約束している。「(鈴木のメジャー挑戦で)ライトが空くかもしれないんだし、ポジション争いをしてほしい。新井(貴裕氏)も40歳近くなって(広島に)帰ってきている。試合にスタメンで出て、ある程度の数字を残しながら引っ張らないと」とレギュラー奪取に期待した。

 長野自身も「カープへ帰ってきた新井さんや楽天で復活した山崎武司さんとか、年齢を重ねてからもバリバリ主力としてタイトルに絡んでいた方もいますからね。まだ元気だし、試合に出たい。首位打者を取り直すつもりで来年はやっちゃいます」。周囲にはそう宣言している。

 一部では、理事長の脱税問題などで揺れる母校・日大が立ち上げる「日本大学再生会議」の有識者メンバーに推されているともウワサの長野だが、来季はそんな仕事に就いている余裕はない。紳士、人格者キャラは一時返上して、もう一度がむしゃらにグラウンドで暴れ回る。

(金額は推定)