このままでは4年に一度の「スポーツの祭典」は長く続かないかもしれない。アーチェリー男子個人の五輪2大会メダリストの山本博氏(59=日体大教)が、本紙の取材に応じ、国際オリンピック委員会(IOC)や大舞台のあり方について激白した。ロングインタビュー第2回は巨額マネーを狙う〝IOCの迷走〟に注目する。


【山本先生と考える五輪の「現在」と「未来」(2)】

 ――自身も出場を目指している五輪はどう進行していくと感じるか

 山本氏(以下山本) 米国のテレビ局NBCが2032年夏季五輪までの放映権について、約7800億円の契約を結んでいますよね。IOCとしては人気が上がれば、次の契約更新のタイミングでより放映権を高くできると考えているように感じます。

 ――人気向上には若い世代を無視できない

 山本 若年層の世界的な五輪離れを回避したいのもわかります。だから夏、冬どちらも若者が受け入れるようなスポーツをどんどん入れながら、一生懸命だなという印象を受けます。

 ――今後も新競技が採用されるかもしれない

 山本 以前にeスポーツを入れようという報道を耳にしたことがありました。実際はどうなっているのかわかりませんが…。私個人の考えは、eスポーツが悪いと言っているわけではなく、IOCの中ではもしかするとeスポーツ市場で動いている金額の大きさに着目しているのではないかと。そのような印象を感じました。

 ――これは五輪が迷走を始めているのでは

 山本 サマランチ氏が行った改革で1984年ロサンゼルス五輪以降、開催都市が赤字にならないような運営をスタートさせたのは非常によかったと思いますし、選手も多少は恩恵を受けられたと思います。ただ、近年は右肩上がりだった五輪人気が陰りを見せ、米国の視聴率も横ばいと聞きます。そこでIOCは自らの懐事情に危機感を募らせて、思いきった変化を求めていると思うんですけど、私はそれが五輪を短命で終わらせてしまうのではという気がしてならないんです。

 ――北京五輪が〝五輪離れ〟のきっかけにならなければいいが…

 山本 冬季五輪の影響はそんなに大きくないと思うんですよ。夏季と比べて競技数など規模が全然違いますから。ただ、今のままだと五輪は豊かな国でしか開催できないと思いませんか?

 ――たしかに開催できそうな国と地域は限られている

 山本 五輪を簡素にして、どこの国でもできるようにと言っておきながら、実際には感染症など予期できないことも起きてしまって、残念ながら東京五輪はコンパクトにならなかった。費用も膨らみましたよね。


 ☆やまもと・ひろし 1962年10月31日生まれ。横浜市出身。中学1年からアーチェリーを始め、学生時代はインターハイ3連覇、インカレ4連覇。日体大在学中の84年ロサンゼルス五輪で銅メダル、2004年アテネ五輪で銀メダルを獲得するなど五輪5大会に出場。アテネでの20年ぶり五輪メダル獲得は「中年の星」として注目を集めた。ニックネームは「山本先生」。現在は現役選手として活動しつつ、日体大教授、東京都体育協会会長、東京五輪・パラリンピック組織委員会顧問など多方面で活躍中。