次世代にバトンをつなぐには、抜本的な改革が必要なのかもしれない。アーチェリー男子個人の五輪2大会メダリストの山本博氏(59=日体大教)が、取材に応じ、国際オリンピック委員会(IOC)や大舞台のあり方について激白した。ロングインタビュー最終回は同氏が30年前から思い描く〝ある構想〟を紹介する。


【山本先生と考える五輪の「現在」と「未来」(3)】

 ――なぜ五輪の簡素化は実現しないのか

 山本氏(以下山本) 東京五輪では多くの量の弁当が廃棄されたことが報じられましたよね。なぜこのようなことが起こるかというと、どこでも初めてのスタッフが初めてのことに取り組むわけですから。無駄が出るのは想定できたというか、当たり前だったのかもしれません。

 ――運営でミスが生じるのは必然だったと

 山本 この反省を生かす機会がなかなかありませんからね。例えば前回はこうやって失敗したから、今回は弁当の注文をこうしようとか。次があればいいんですが、開催した国に限って考えると次がなかなかない。昨年の東京五輪も58年前のことは運営の側面から見れば時代も変わって参考にもならなかったでしょうし。

 ――無駄を減らし、費用を抑えるにはどうすれば

 山本 これまで以上にIOCがしっかりするしかありません。東京開催の成功も失敗も3年後のパリで指導できるように。ただ、実質運営の細かいところは全部任せきりだった印象を今回は感じました。先のことを考えるならより建設的な議論を。

 ――抜本的な改革が必要だ

 山本 30年ぐらい前になりますかね。JOCアスリート委員の方々と「なぜ五輪はこんなにお金がかかって、開催国が赤字になってしまうのか」という話をしていたんです。そこで開催方法について、あれこれ考えていたところ一つの案が出たんですよ。

 ――どのような案が出たのか

 山本 夏季五輪に限りますが、どこか温暖な地域にある無人島をIOCに登録している国でお金を出し合って買うんです。そこに必要な施設を建設して4年に一度開門する。各国から役員、スタッフ、護衛が集まり、その島で五輪をやることにすれば、開催国の負担は軽減されるのではという話したことがあるんですよ。

 ――無人島を活用する

 山本 オリンピックアイランド計画です(笑い)。五輪の聖地を用意することで招致合戦やいろんな課題も一気に解消できると思います。もちろん、過去のアイデアなので今となっては様々な意見が出るでしょうが、選手の中では当時そんな話をしましたね。よりよくしていくためにもIOCにはこれまで以上に建設的な会議をしてほしいものです。

 ――現状では2032年ブリスベン五輪まで決定している

 山本 こんなに先まで決めているのは招致活動で手を挙げた国の負担を減らすということもあるでしょう。でも、これから政治的な不安や財政危機、災害と何が起こるか分かりませんよ。何事も過信しすぎているとよくないです。いつの大会でも選手がよりよく活躍できる大会であってほしいです。


 ☆やまもと・ひろし 1962年10月31日生まれ。横浜市出身。中学1年からアーチェリーを始め、学生時代はインターハイ3連覇、インカレ4連覇。日体大在学中の84年ロサンゼルス五輪で銅メダル、2004年アテネ五輪で銀メダルを獲得するなど五輪5大会に出場。アテネでの20年ぶり五輪メダル獲得は「中年の星」として注目を集めた。ニックネームは「山本先生」。現在は現役選手として活動しつつ、日体大教授、東京都体育協会会長、東京五輪・パラリンピック組織委員会顧問など多方面で活躍中。