【久保康生 魔改造の手腕(26)】来日1年目は平凡な成績に終わったメッセですが、2年目からは一生の武器となる技術を習得して「稼げる投手」となっていきました。

 もともと、腕が肩の高さ近くまで下がってしまい、198センチの長身を生かせていませんでした。それをカーブを意識して多投することで修正。腕を縦振りにし、同じところから直球を投げるというドリルを課すことにしました。

 さらにピッチングの原理についてもこんこんと話し込みました。

 ピッチャーズプレートから18・44メートル先に幅43・2センチ、高さは打者にもよりますが約80センチ、奥行き43・2センチの立体になったストライクゾーンがある。この立体の中をどう通せば有効なのかを説明しました。

 どの角度でボールを通すとストライクの確率も上がり、打者が見づらく、ボールになる変化球にも反応してくれるのか。

 バッターとピッチャーの間の18・44メートルは平等ですが、これは技術や工夫で縮めることができるんです。いかに打者の近くでリリースして距離を縮めるかという作業です。

 メッセの場合は長身ですからもともとが有利です。なのに、腕が下がったフォームで立体に横からアプローチするため、ストライクゾーンを広く使えなくなっていました。ボールの軌道と立体の接点が限られます。しかも打者目線だと、特に左打者からボールの軌道を見極めやすくなってしまいます。

 ボールは側面から見ると軌道を読みやすいんです。これは野球経験者でセンターを守ったことのある人なら分かります。真正面からのセンターライナーは非常に距離が取りにくい。でも、少し横から見るだけで落下点を把握しやすいんです。

 カーブを投げることでメッセの腕の振りを縦振りに修正することに、ある程度まで成功しました。しかし、まだ真上から投げられていたわけではありません。そこでもともと、体が左側に倒れる傾向を利用して、自分の体を少し横に倒して腕はストライクゾーンに真っすぐ縦にアプローチできるように修正しました。

 そうするとトップの位置からボールが角度の付いた樋(とい)を伝うように、ストライクゾーンの立体目掛けて飛んで行きます。これなら少々、軌道がズレてもストライクを取ることも容易です。また、同じリリースと軌道でカーブ、フォークを投げると、ボールゾーンに変化しても打者が反応してしまいます。真正面から投球を見ると、距離が取りづらいですから。

 さらに、その真正面から向かってくるボールに角度をつけることを意識すると、よりバットで捉えにくくなります。

 当たり前の話なのですが、ボールは上から下に落ちます。高いところから低いところへ向かうにつれ加速度がついていきます。非常に長身であるメッセが、この原理を利用しない手はないわけです。

 できるだけ高い位置からボールをリリースし、捕手が受ける最下点で最大の加速度と威力を持つボールを投げる。角度がつけばつくほど打者は見極めることも、打つことも困難になります。

 極端な話ですが、真上から垂直にスッと落としたボールを通常のバットスイングで捉えるのは難しいですよね。一瞬の点でボールを捉えないといけないからです。

 次回はこの角度をつけた投球をするためのドリルについてお話しさせていただきます。

 ☆くぼ・やすお 1958年4月8日、福岡県生まれ。柳川商高では2年の選抜、3年の夏に甲子園を経験。76年近鉄のドラフト1位でプロ入りした。80年にプロ初勝利を挙げるなど8勝3セーブでリーグ優勝に貢献。82年は自己最多の12勝をマーク。88年途中に阪神へ移籍。96年、近鉄に復帰し97年限りで現役引退。その後は近鉄、阪神、ソフトバンク、韓国・斗山で投手コーチを務めた。元MLBの大塚晶文、岩隈久志らを育成した手腕は球界では評判。現在は大和高田クラブのアドバイザーを務める。NPB通算71勝62敗30セーブ