【元局アナ青池奈津子のメジャー通信】

 ずっと行きたかったドミニカ共和国に行ってみた。気になり始めたのは10年以上前だと思う。当コラムで初めて紹介した同国出身選手はウラジーミル・ゲレロ(父の方)だったか。物静かでインタビュー嫌い、英語も苦手というゲレロ父との単語をつなぎながらの優しい会話。16歳で野球を始め、驚異的な身体能力を持つネルソン・クルーズの生い立ち。矢を射るポーズで有名なフェルナンド・ロドニーが踊りながら5種類の香水を一度に愛用する姿――。

 野球にかかわらなければ、きっと触れ合うことのなかったドミニカ共和国の人たちのストーリーやキャラの濃さに、ずっと魅了されてきた。ヤンキース取材時代、気のいい球場スタッフら数人がドミニカ人だったことも大きいかもしれない。

 昨年12月半ば、オミクロン株出現による水際対策から2年連続で日本での年越しが難しいとなった時、なんだか無性に日常生活から飛び出したくなり、本当にふと浮かんだ「ドミニカ共和国」を検索してみた。

 すると、事前のネット申請とワクチン接種証明さえあれば陰性証明なしで入国できるという。思わず「なんてドミニカらしいのだろう」と笑ってしまった。プエルトリコやセントトーマスなど近隣の島では48時間以内の陰性証明が必要なのに、メキシコやドミニカ共和国は不要…まさに人々から抱くイメージそのものだったからだ。

 近代文明の神秘(?)である「検索した途端に関連の書き込みや宣伝が突然増える」アルゴリズムのおかげで、SNS上でドミニカ共和国の友人が帰省している書き込みやカリブ海への渡航キャンペーンなどが一気に目につくようになった。新型コロナ禍での旅にやや心配はあったが、イチかバチかだ。ウインターリーグにも行ってみたい。

 その友人が「プンタカーナ」(島の東側にあるビーチリゾート)が美しいというから、往路はプンタカーナ行き、復路の切符を首都であるサントドミンゴから取った。

 レンタカーを予約したものの、ドミニカ共和国に行ったことのある知人が「運転は絶対にやめた方がいい」というのでキャンセル。結果的に配車サービス「Uber」が安く使えたので困らなかったが、なるほど道路は舗装されていても車線はあってないようなもの。追い越しは当たり前で、信号機が赤でも行けると思ったらクラクションを鳴らして交差点に突進する――これで1週間のうちに1度しか交通事故を見なかったのが不思議なくらいだった。よほどロサンゼルスの方が事故渋滞は多い。

 治安は驚くほど良かった。プンタカーナは、巨大なホテルが立ち並ぶリゾートエリアだが、小さなビレッジに滞在したので食事のための夜間外出も問題なかった。何より驚いたのは食事のおいしさ。この季節によくあるというスコールに出迎えられた初日、夏服に着替えて繰り出したビーチのバーで頼んだ魚介のセビーチェ、白身魚のエンパナーダ(具入りのパン)とピニャコラーダ(ココナツミルクの入ったラムベースのカクテル)は人生トップ10に入るほど美味だった。

 プランテイン(調理用バナナ)でできたモフォンゴ、魚や鶏肉と野菜をじっくり煮込んだスープのサンコーチョ、ヤギ料理などの地元食もさることながらパスタは本場イタリアに近いものが食べられた。

 自分でも何を期待していたのか分からないが、想像以上の体験をさせてもらう旅となった。次回は、ある人物を追いかけてドミニカ共和国を横断した話。