【久保康生 魔改造の手腕(34)】 昔の話題がどうしても多くなるので、今回は少し最近の話題をお届けいたします。2020年、21年と2年連続の2桁勝利を挙げ、年俸1億円を突破したと報道された秋山拓巳投手のお話です。

 秋山は09年のドラフトから思い返せば、指導の時間が長い選手でした。入団1年目の10年から無四球完封試合を達成するなど4勝を挙げました。実力の片鱗を見せてはいましたが、長く迷ったというか、ようやく自分らしさを発揮できていますね。

 昨年、契約更改を終え、シーズンの報告をもらったとき年俸の大台超えを知り「よかったなあ。牛歩戦術やったけどなあ」とお話しさせていただきました。

 制球力の良さと、ボールを前でリリースできる特性を開花させることができましたね。入団以来、ずっと見ていて実践してくれているのは、プレートでの立ち方。軸足の右足と踏み出す左足を離さず、小さく足を踏み替えて投球の始動をすることを守ってくれています。

 打者が勝手に考えさせられてしまうボールというのでしょうか。投球すべてが長方形の立体であるストライクゾーンに向かってくる軌道を描きます。理にかなったフォームからそういう出どころ、リリースポイントで投球を繰り出します。

 ボール球でもストライクゾーンをかすめるように通過していく。様子を見ようとすると簡単にストライクを取られてしまう。全部、打ちたくなるようなボールがくるのに、打ちにいくと逃げ、見送るとストライク。ストライクとボールがはっきりしている投手の真逆です。選球が非常にしづらい投手ですね。

 普通にシンプルに打てばいいんですが、勝手に考えさせられてスイングスピードを変えられてしまう。表現は難しいですが、そんなイメージです。現役時代の下柳剛にも似たものがありました。

 野球という競技の仕組み。秋山はこれをしっかり理解してくれています。以前にも名前を出した選手たち、近鉄時代の大塚も岩隈も、阪神の能見もメッセ、スタンも私の講義をしっかり理解してくれています。

 ストライクゾーンの長方形の立体の上の一辺に斜め上から入ってきて、そこからどういう軌道で抜けていくのか。ロッカールームのホワイトボードに書いて、よく話したのを思い出します。

 昨年限りで引退した桑原謙太朗も印象に残る選手です。プロ10年目の17年、31歳にしてブレークしてくれました。自己最多の67試合で4勝2敗39ホールド、防御率1・51で最優秀中継ぎ投手です。金本阪神2位の原動力となってくれました。

 ずっと制球力不足に悩んでいました。このままで終わりたくない。本人も意識したであろうタイミングで動きました。16年9月でした。夏場に右ヒジ痛を訴え一軍登板もゼロ。戦力外リストにも入っていました。

 しかし、ここから全力投球を1か月禁止。肩ヒジの負担を減らし、正しいフォームでショートピッチを反復させました。つらかったでしょうけど桑原は頑張ってくれて、見違えるようになってくれました。

 13年に阪神に復帰してからはファームで若手の育成と、調子を崩した一軍戦力の再調整に取り組んできました。すべてがうまくいくわけではないですが、非常にやりがいのある時間でした。ただ17年のオフ、私は球団から来季の契約を結ばないという旨の通知を受けることになります。