漫才コンビ「ザ・ぼんち」のぼんちおさむ(69)と里見まさと(69)が3月11日(午後6時30分開演)に大阪・なんばグランド花月で「古希記念単独ライブ ダイヤモンドは砕けない」を開催する。1972年のコンビ結成から50年。山あり谷ありの芸人人生を歩んできた2人が、これまでを振り返りつつ、記念公演への意気込みを語った。

   ◇   ◇   ◇

コンビ結成から50年の区切りと70歳の節目を今年迎えるザ・ぼんち。「我々はエリートでない漫才人生を歩んできました。プロ野球でいえばドラフト1位ではなく、育成からはい上がってきました」と、舞台で見せる底抜けの笑顔と違った表情でおさむは語る。

他を圧するおさむのキャラクターが舞台で爆発し、会場に爆笑を呼ぶ。技術的な意味で「僕らに『うまい漫才』はできない」というのだ。

相方のまさとも「メッセンジャーや中川家、海原やすこ・ともこらはほんまに上手やし、すごいと思う」と後輩の漫才コンビの力量を素直にたたえる。彼らよりもさらに若いミルクボーイ、ももについても「自分の型をしっかり持っている。ネタ回しからオチに持っていくところなど、素晴らしいですよ僕らの若いころとレベルが違う」と2人は称賛を惜しまない。

しかし、スタイルこそ違えど他にはない「型」を持っているのは、ぼんちの魅力。舞台狭しとおさむが大声を張り上げ、まさとが的確にコントロールする。

「今まで冒険もしてきました。何よりここまでやってこれたことを感謝して、一番元気な70歳の舞台を皆さんに届けたい」とまさとは記念の公演に気合を込めた。

2人の出会いは高校時代にさかのぼる。高校野球の強豪で知られる大阪・興国高校。1年15組のクラスメートだった。ただ当時は「真反対の生徒でした」と、おさむ。まさとは野球部に入り、連日の猛練習。時には授業中に居眠りすることもあったという。一方のおさむはそのころから、ひょうきん者。休み時間には教壇に立って橋幸夫のモノマネを演じては拍手喝采だった。

対照的な2人がコンビを組むのは卒業後。タイヘイトリオに師事していたまさと。曽我廼家明蝶主催のスクールで俳優を目指していたおさむが漫才に転向し、その後まさとと再会する。「高校時代の印象から、まさか彼が漫才師を目指していたとは想像もしなかった」(おさむ)。

デビュー後数年は吉本興業の劇場が活動の中心。まだまだ若手の漫才コンビだったが、「早く売れたい。お金を稼ぎたい」と夢見るまさとに対し、おさむには「絶対に売れるという自信がなぜかあったんです」。

根拠のない自信がやがて現実に変わる。1980年(昭和55)、漫才ブームの到来だ。やすし・きよし、B&B、ツービート、紳助・竜介、のりお・よしお、阪神・巨人、サブロー・シローらが一気に全国区のスターダムにのし上がる。彼らが出演する「花王名人劇場」「THE MANZAI」などの番組が高視聴率をたたきだした。

「冗談でなく、寝る暇がなくなりました。少し前にピンク・レディーの2人が『毎日3時間も寝られない』と言ってたのですが、僕らもほんまにそうなったんです」とおさむ、まさとともに声をそろえた。

漫才で超売れっ子になったのに、ザ・ぼんちは歌まで売れた。「恋のぼんちシート」が大ヒット。81年7月21日には日本武道館でコンサートまでやってのけた。もちろん漫才コンビとしては史上初の快挙だった。

「テレビの歌番組にも呼ばれるのですが、忙しすぎてスタジオ入りがいつも本番直前。五木ひろしさん、郷ひろみさんらが早くから入ってリハーサルされていたのに、僕らはそれもなし。今でも申し訳なかったと思ってます」と、まさとは恐縮した。

移動の新幹線や飛行機、クルマの中が貴重な睡眠時間。疲れがたまって自分たちの歌がフルで歌えるのか、ショートバージョンなのか、わからなくなることもあった。

「でも楽しいこともありました。歌手の方との共演が増えて、松田聖子ちゃんや郷ひろみさんと即興で漫才をするコーナーもあったんです。お笑いと歌の世界の壁が壊れた瞬間を実感できました」と、おさむは懐かしんだ。

ただ、出るくいは打たれる。殺人的なスケジュールに追われる中、ホームグラウンドの劇場に出演したときのこと。極度の睡眠不足から、つい楽屋でうとうとしたところ、先輩芸人に「お前らも偉くなったのお」と嫌みを言われたこともあった。体力精神力をギリギリまですり減らした漫才ブーム。まさに社会現象だった。

だが、ブームもやがて終焉(しゅうえん)を迎える。86年、コンビ解散。おさむは俳優に転身し、藤田まこと主演の人気ドラマ「はぐれ刑事純情派」にレギュラー出演。漫才時代とは打って変わってシリアスな演技を見せた。16年間にわたって同ドラマに出演したが、初めて台本を手にした時には驚いた。「僕の役名が里見刑事なんです。相方の名前と同じなんで、こんな偶然があるもんやなと」

一方のまさとは故亀山房代さんと漫才コンビを結成。ゼロから実績をこつこつと積み上げ、97年(平成9)に上方お笑い大賞金賞、98年に上方漫才大賞を受賞した。亀山さんの結婚・出産を機にコンビは解散。そして2002年、16年ぶりに「ザ・ぼんち」再結成にいたる。

「また2人で始めることになったのは、まさに縁ですね。葛藤はお互いにあったけれど、50歳の再出発です」(まさと)

3月11日の公演では、これまで培ってきた漫才を存分に披露するほか、ともに漫才ブームを駆け抜けた「戦友」のりお・よしおがゲスト出演。過去の秘話も飛び出しそうだ。

70歳を目の前にすれば、健康が気になるのは誰も同じ。コロナ禍で家飲みが増えたというおさむは「お酒を抜くために、ウオーキングなどの運動を心がけています」と話す。まさとは「僕らの場合、人前に出るのが何よりの薬になります。年齢とともに物覚えも悪くなりますが、そこは努力でなんとか乗り越えて、日本一元気な漫才をお見せします」。

酸いも甘いも知り尽くした70歳コンビのステージに注目だ。