今こそビートルズを極めよう。ロック史上最大のバンド、ザ・ビートルズのラストオリジナルアルバム「レット・イット・ビー」のスペシャル・エディション6枚組が昨年末に発売された。映画「ザ・ビートルズ:Get Back」もディズニープラスで配信中で、再びステイホーム時間が増えた今こそ名盤をじっくり聴くチャンス。発売元のユニバーサルミュージックでビートルズを担当するUSM洋楽A&R本部の制作プロデューサー多田行徳氏に、新装された「レット・イット・ビー」の魅力について聞いた。

 ――スペシャル・エディション発売の経緯は

 多田氏 2017年の「サージェント・ペパーズ」から始まり、18年は「ホワイト・アルバム」、19年は「アビイ・ロード」を新たに紹介するシリーズが続きましたが、今回はディズニープラスさん配給のピーター・ジャクソン監督が再編集した映画「ザ・ビートルズ:Get Back」、弊社のスペシャル・エディション、シンコーミュージックさんから出た公式写真集との3つの共同プロジェクトになりました。

 ――本来なら1970年作なので2年前に発売される予定だったと聞きました

 多田氏 もともとは映像ありきのプロジェクトでしたから。映画は20年に配信予定でしたが、コロナの影響で昨年11月に延期になりました。CDは改めてオリジナルのテープから、現在の音楽を聴く環境に即したリミックスを行うことと、制作工程を音楽的なドキュメンタリーとして聴くことができるのが魅力です。アウトテイクスもふんだんに入っていて、どんな過程で曲が完成していったのかという部分にも興味を持っていただけるかと。音楽的ドキュメントとしても楽しんでいただけると思います。

 ――CD1のニュー・ミックス盤の特徴は

 多田氏 先ほどもお話しさせていただいたように、現在の音楽を聴く環境に適したリミックスが施されています。これまでと違った聴き方も楽しめますし、知らなかった方でも新しい音として分かりやすい。全体的に言えるのはヴォーカルが前面に出て耳に届きやすくなっていたり、それぞれの楽器が独立して聞こえるようになっています。従来のリマスター盤(09年)とも違いますし、単品でも楽しめます。

 ――CD2、3のアウトテイクス集の魅力は

 多田氏「ザ・ビートルズ:Get Back」の映像を見ていただいていると分かるんですが、映画には全ての曲がまるまる収録されているわけではありません。映画で演奏されていた曲がCDで確認できます。加えてブックレットや写真集もありますので、どうやってゲット・バック・セッションが進んでいったのか、映像で削られた部分の細かい検証ができるのではないでしょうか。

 ――貴重なアウトテイクスが満載です

 多田氏(解散後)個々の作品で発表される曲も入っています。ジョージの「オール・シングス・マスト・パス」やジョンの「ギミ・サム・トゥルース」などをバンドでやってますしね。(解散への)肌感覚はあったでしょうけれど、このセッションの時期(69年1月)は解散は頭になかったと思います。その後に「アビイ・ロード」のレコーディングに向かうわけですが…。

 ――CD4は最初の原形となったグリン・ジョンズ・ミックスの「ゲット・バック」が初めて収録されている

 多田氏 今回初公開ですので「レット・イット・ビー」はここから始まったという楽しみ方ができます。メンバーからOKが出なかったため、フィル・スペクターにプロデュースを任せて紆余曲折を経て「レット・イット・ビー」にたどりついた。ラストアルバムであると同時にサントラ的な要素も強いので、今回は音と映像と書籍と同時に発表されるという、本来あるべき形になりました。

 ――CD5とBlu―rayの特徴は

 多田氏 前4枚に収まらなかった貴重なシングルバージョンなどで2曲が未発表。Blu―rayは5・1チャンネルのサラウンド、ドルビー・アトモス・ミックスや、ハイレゾで聴いていただくと、今までと違う聴き方ができると思います。

 ――1枚組や2枚組も同時発売されている

 多田氏 6枚組のスペシャル・エディションを手にするのを迷っている方は単体のCD、アウトテイクスのハイライトも収めた2枚組、アナログではピクチャーディスクも出ていますので、皆さんの選択で新しい「レット・イット・ビー」を楽しんでいただきたいですね。

 ――来年はデビューアルバム「プリーズ・プリーズ・ミー」リリースから60周年を迎えますが、今後、他のアルバムがスペシャル・エディションで発表される可能性は

 多田氏 どうなるかは分かりません。予定は未定です(笑い)。途中で終わることはないとは思いますので、お楽しみにしていただければ。順番までは把握できませんが何らかの形で出ることは我々も期待しています。

 ――最後に

 多田氏 実は「レット・イット・ビー」は日本で一番人気が高い曲なんです。人気投票でも1位になることが多い。今回のスペシャル・エディションを聴いていただければ、知っている方も知らなかった方も「あ、これはちょっと違う!」と新しさを感じていただけると思います。