俳優古田新太(56)主演のミュージカル「ロッキー・ホラー・ショー」(東京・PARCO劇場)を観劇した。同作は、73年にロンドンの小劇場で幕を開けたリチャード・オブライエンの伝説的作品。熱狂的なファンをもつカルト・ミュージカル。古城を舞台に、城の主(フルター)と人造人間、カップルらのはちゃめちゃな愛と欲望が描かれる。

過去2度(11年、17年)にわたって、主人公・フランク・フルターを務めた古田が、「最後のフランク役」と決めた公演だ。

昨年12月に、古田をインタビューする機会に恵まれた。前回の公演でフランク役は卒業する予定だったが、“後継者”が見つからず、56歳にして「世界最高齢のフランク」を演じることになったという。

“後継者”について「生田斗真とかだったらいいんじゃないかとか、城田(優)とかでもいいのかなとかって。でもどうにもみんなきれいで。やっぱり、フランク・フルターっていうのは、ちょっと化け物感があるから。ある程度歌えてある程度踊れて気持ち悪い、女装できるおじさんってなってくるとまあおれかっていう」と語っていた。

劇中で、古田演じるフランクの登場は、開幕してから約30分。小池徹平、昆夏美、ISSA、フランク莉奈、峯岸みなみ、東京ゲゲゲイ、武田真治、ROLLY、岡本健一ら豪華キャストが観客を温めたところに、ステージ後方からド派手に現れる。唯一無二の迫力だ。作品の中身を全く知らない人が見てもひと目で「この人が主役だ」とわかるほどの存在感。派手な化粧、髪形、がっちりとした上半身と、不釣り合いなほど美しい脚に、よく通る歌声。登場と同時に大きな拍手がわいた。

そこからは古田劇場だ。峯岸のはじけっぷり、武田の肉体やサックス、ISSAの歌声、昆の見たこともないような一面、小池の安定感など、見どころは多い。しかし、古田の存在感は圧倒的だ。セリフ、立ち振る舞いで引き込みつつ、小気味よいアドリブで会場を笑いに包み込む。「観客を笑わせることが好き」と話していた通り、完全に会場の空気を支配していた。前日に行われた映画「KAPPEI」の舞台あいさつで「かむことと飲み込むことが面倒くさい。生卵で酒を飲む」などと話していた姿からは想像もできない変身ぶりだ。

同作は公演前、観客に、劇中の踊りの振りがレクチャーされる。序盤に一度、全員で踊るシーンがある。そして公演の最後、ストーリーが終わったあとに古田が「もうちょっと時間ありますか? 遊んでいきましょう!」と呼び掛けると、観客が立ち上がり、キャストと一体となって全員で踊り狂う。熱狂的なファンたちは1度目から踊っていたが、記者は、周囲を見て拍手するだけだった。しかし、最後の古田からの呼び掛けに勝手に体が反応し、気がついたらリズムに乗って踊っていた。劇中でのフランクのセリフ「快楽に身を任せるのは悪いことじゃない」が印象深い。古田は作品について「いろんな問題はあるのかもしれないけど、みんなでパーティーをしましょうという作品。悲しみもへったくれもない。レッツパーティーって。あー楽しかったっていう、すごく平和な作品だなって思って大好きなんですよ」と話していた。その言葉通り、前知識が何もなくても、知らぬ間にその世界観にどっぷりつかっていった。

古田の演じるフランクは今回が最後というのが惜しい。映像の世界では見ることのできない、古田の魅力が存分に詰まっていた。ミュージカルをみたというより、ライブに参加したような、クラブに来たような、そんな感覚になった。