「遠くへいきたいわ」の主演の野内まるさんと河井青葉さん(左)(団塚唯我監督、(C)2022 VIPO)
「遠くへいきたいわ」の主演の野内まるさんと河井青葉さん(左)(団塚唯我監督、(C)2022 VIPO)

 23歳の新人監督、団塚唯我さんの30分の短編劇映画の制作を今月終えたばかりだ。文化庁の「ndjc若手映画作家育成プロジェクト2021」という事業で、映像産業振興

 応募した49人から15人が選考され、最後に残った4名の新人監督のオリジナル企画を、それぞれ指名を受けた映画の製作会社が制作した。

 その中で、シグロが委託を受けたのが、団塚監督の「遠くへいきたいわ」という作品だ。予算の制限もあり、プロの技術スタッフが支えたとはいえ、26シーンあるシナリオを6日間で撮り上げた。新人監督でなくとも至難だ。

 母を自殺で亡くした若い女性と、娘を失くした母親の女性が、ふとした出会いからお互いの喪失感を共有し、明日に向かって生きる力を見つけるという、短いロードムービーだ。

 一見重いテーマだが、映画が根源的に持っているエンタテインメント性を獲得した作品に仕上がっている。どんな時も、生きていれば希望があるというカタルシスを持った見応えのある短編だ。主演の野内まるさん、河井青葉さん他のキャスティングから撮影、編集・仕上まで、映画制作の全ての工程を、団塚監督はほとんど完璧に支配していた。

 始まりはVIPOからの委託制作だったが、才能ある監督と出会えたことはうれしかった。団塚監督以外の3名の監督と作品も紹介しておきたい。竹中貞人監督「少年と戦車」、道本咲希監督「なっちゃんの家族」、藤田直哉監督「LONG―TERM COFFEE BREAK」だ。

 合評会の完成試写では「少年と戦車」で主演を務めた鈴木福さんの、戦車の上での初めてのキスシーンにマスコミの話題が集中していたのが、印象的だった。

 今回の4作品は、今月2月25日から3月3日まで、角川シネマ有楽町で上映される。新しい時代を感じさせる映画を、ぜひ見てほしい。

 この若手映画作家の育成事業からデビューし、映画監督として活躍している人は多い。今年の4名の監督たちも、皆それぞれ近い将来デビューしていくだろうと思う。注目していてほしい。

 ☆やまがみ・てつじろう 1954年、熊本県生まれ。86年「シグロ」を設立、代表就任。以来80本以上の劇映画、ドキュメンタリー映画を製作・配給。「絵の中のぼくの村」(96年)でベルリン国際映画祭銀熊賞受賞をはじめ、国内外の映画賞を多数受賞。主な作品に石原さとみ映画デビュー作「わたしのグランパ」(2003年)、「老人と海」「ハッシュ!」「松ヶ根乱射事件」「酔いがさめたら、うちに帰ろう。」「沖縄 うりずんの雨」「だれかの木琴」「明日をへぐる」など。最新作「親密な他人」が3月5日から公開される。