捕手王国の誕生なるか。プロ野球がいよいよ25日に開幕し、巨人は本拠地・東京ドームで中日を迎え撃つ。昨季まで流動的だった捕手陣の強化を託された一人が、阿部慎之助作戦兼ディフェンスチーフコーチ(43)だ。19年間の現役生活で長く正捕手であり続け、いかにチームを勝利に導いてきたのか。これまでほとんど本人が語ることのなかった〝最強帝王学〟の一端とは――。

 24日の全体練習で最終調整を行った捕手陣は、開幕スタメンマスクをかぶる小林、そして大城、山瀬の3人だった。まずはこのメンバーでシーズンに突入し、本番の戦いを通じて阿部コーチらが指導にあたる。元最強捕手の財産が本格的に還元されることになるが、阿部コーチが考える「配球」と「リード」の違いとは何か。

 阿部コーチ「ミーティング通りにやっていたら、たぶん『配球』は誰でもできるよ。だけど『リード』というのは、その『配球』をアレンジしていくもの。自分の記憶からアレンジしたりしていくことで『リード』になる」

 試合前のミーティングではスコアラーなどから寄せられる相手のデータや傾向をもとに、対策が練られる。現役時代はどう解釈しながら試合に臨んでいたのだろうか。

 阿部コーチ「大まかに言うと、捕手の配球というのは1巡目に『様子見』、2巡目に『エサまき』、それを3巡目で『アレンジ』、4巡目を『堅く』だと思っているんですよ。(試合の)最後に『堅く』いけるようにするために『エサまき』とか『アレンジ』の2つをしておく。この1、2、3は試合の状況とかで変わったりする」

 最終目的はチームを勝たせること。勝ち切るための〝堅いリード〟をするために、試合展開に応じて逆算し、臨機応変に切り替えていく。具体例として挙げたのが、ヤクルトの主砲・村上との対戦だ。

 阿部コーチ「2回の表でウチが5―0勝っているとする。俺だったら、いきなりエサをまいちゃう。全部、インコースにドンドンドンドンっていくね。打たれたっていいよ。そこ(大量リードの展開)で〝いくよ〟というのを見せておかないと。なぜ、そこでそうしないといけないかと言うと、次に二死満塁で村上となった時、絶対に(大胆に内角を攻めて)いけないから。そういうことも逆算して『おっ、チャンスだな』と思ってエサをまいておかないと」

「エサまき」をどのタイミングで行うかも「リード」の〝肝〟と言えそうだ。また、ミーティング通りの「配球」を続けるばかりでは、なかなか通用しない側面もあるようだ。

 阿部コーチ「もしかすると、チームの決めごとで『〇〇の1打席目は△△でいく』とかは、あるかもしれない。中心打者にはね。戦略を立てるということは大事。だけど、戦術ってゴロゴロ変わるから。リードしたら1巡目でいきなり『エサまき』もできるし。『エサまき』『様子見』『アレンジ』は全部ぐちゃぐちゃ。みんなもそこに対応していかないとね」

 投手が捕手の要求通りに寸分違わず投げ切れることはない。ど真ん中に失投をしても、打者を打ち取れれば〝正解〟となる。「リードは結果論」とも言われ、終わりなき戦いが続くのが捕手の世界。かつてはリードをボロカスに叩かれ「人間不信」にまで陥った阿部コーチの本格指導が始まる。