21年1月に直腸がんの手術を受け、治療中と公表した音楽家の坂本龍一(70)が26日、東京・サントリーホールで行われた「東北ユースオーケストラ」東京公演に代表、音楽監督、ピアノとして出演した。22日の岩手公演は体調不十分のため出演をキャンセルし、23日の宮城公演、同24日の福島公演は、16日深夜に発生した地震の影響で中止されたため、この日が治療を公表後、初の公の場となった。坂本は自らピアノを弾いて「母と暮せば」を演奏し、朗読した吉永小百合(77)と共演。壇上ではロシアのウクライナ侵攻について言及し、平和への揺るぎない思いを訴えた。

「東北ユースオーケストラ」は、自ら13年に編成した東日本大震災の被災地岩手、宮城、福島3県の小、中、高、大学生中心の楽団。新型コロナウイルス感染拡大の影響で20年、21年と2年連続で演奏会を中止してきたが、感染予防対策ガイドラインに沿い万全の対策のもとで3年ぶりに演奏会を実施した。坂本はこの日、最初に演奏された、20年の公演で演奏予定だった書き下ろしの新曲「いま時間が傾いて」の演奏後に登壇し「今日、初めて生で聴いた。内心、かなりグッときた。みんなの演奏も良かった。ありがとう」と、演奏した団員をたたえた。

その上で「鎮魂の音楽ですけども、やっぱり、聴くと3・11(東日本大震災)とともにウクライナのことを思い浮かべちゃう。もちろん、自然災害と戦争は違うもの…でも、鎮魂という意味では共通している。そういう気持ちが入っちゃう」とロシアのウクライナ侵攻について語った。この日は黒のスーツに、首に東北ユースオーケストラのマークが入ったストールを巻いていたが「本当は黄色と青を着たかったんですけど」と苦笑した。

吉永は、白いドレスの左肩に、東北ユースオーケストラのマークを身に着けて登壇し、朗読した。朗読した6篇の詩の中には、1999年(平11)6月23日の沖縄慰霊の日に行われた沖縄戦没者追悼式で当時、沖縄県塩屋小5年生だった宮城夏喜さんが朗読した「心のたんぽぽ」があった。吉永は「少女が沖縄の平和の日に作った、短いですけれど、すばらしい詩を読みました」と語った。その上で「本当に争い、なくなると良いですね」と、ロシアがウクライナに侵攻する中、平和への思いを力を込めて口にした。

坂本は、公演後

「まずは311やその後の自然災害や原発を含む事故で被災された方や犠牲者を悼みたいと思います。そして世界の平和を心から願います。3年待ってやっと新作『いま時間が傾いて』を聞くことができて感無量です。『第九』上手くなっていて、しっかりベートーベンの響きになっていました」

とコメントを発表した。