巨人は6日の広島戦(マツダ)に2―1で逆転勝ちし、首位をキープして対戦成績を1勝1敗の五分に戻した。ただ、勝負はまさに紙一重だった。3年ぶりに三塁コーチャーに〝復帰〟した元木大介ヘッド兼オフェンスチーフコーチ(50)の判断で、本塁に突入した中田翔内野手(32)が憤死。その後の原辰徳監督(63)の報道陣への対応を含め、本紙専属評論家の大下剛史氏が見たものは――。 

 ひと振りで試合をひっくり返した。1点を追う8回に吉川が「奇跡!」と振り返った今季1号2ランで逆転し、9回はドラ1守護神・大勢がわずか7球で料理。無傷の7セーブ目を挙げ、1978年に角三男が記録した球団新人最多記録に並んだ。

 吉川の一発ですべてを帳消しにしたが、劣勢ムードに拍車をかけかねなかったのが7回の攻撃だった。6回までゼロ行進で、わずか1安打に封じられた広島先発・床田から中田が左前打で出塁。一死一塁から次打者の丸が放った打球は、右中間を破る長打コースとなった。中田は二塁ベースを回って激走。すると、三塁コーチャーの元木ヘッドは腕を回して本塁突入を指示した。中田は頭から突っ込んだが、リクエストの結果、判定通りアウトになった。

 このシーンについて、大下氏は「三塁コーチャーに求められるのは瞬時の判断。難しい局面だったことは間違いない」と前置きした上で「巨人打線が打ちあぐねたとはいえ、あそこは中田の走力を考えても回すべきではなかっただろう。次打者は長打を期待できるウィーラー。中田を止めて一死二、三塁とし、犠牲フライでも同点が見込める場面だった。なかなか得点できず、カッカしている中でもどこかに冷静な判断が必要だ」とした。

 ただ、大下氏が目を見張ったのはその後の原監督の対応だった。チームが勝利したこともあったかもしれないが、試合後の指揮官は報道陣に対し、元木ヘッドについて言及することは一切なかった。

 大下氏は「もし原監督がメディアの前であの判断について否定的なことを言えば、元木ヘッドは次から瞬時の判断に迷いが出ていたはずだ。私も広島のコーチ時代に同じようなことがあったが、監督が『任せた』とした以上、言ってはいけないこと。原監督と元木ヘッドは年齢差もあるものの、信頼関係が揺らいでいた可能性もあった」と語った。

 原監督は開幕2連勝を飾った先発メルセデスと決勝弾の吉川、大勢の奮闘をたたえ「今日はナイスゲームです」と締めた。首位を走る熟練指揮官の〝器の大きさ〟を改めて感じ取る一戦となったようだ。