スティーブン・スピルバーグ監督の映画「ウエスト・サイド・ストーリー」に主演したハリウッドの若手スター、アンセル・エルゴート(28)がWOWOWと米大手HBO Maxの共同制作ドラマ「TOKYO VICE」(24日スタート。日曜午後10時放送、配信。全8話)に主演した。このほど日刊スポーツの取材に応じ、新人記者を演じるために習得した日本語を生かし日本の作品への出演に強い意欲を示した。“センパイ”と尊敬する伊藤英明(46)も「月9に出たら面白い」と太鼓判を押した。【取材・構成=村上幸将】

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エルゴート(以下E)の日本語には、よどみがない。「ウマが合う」などの表現やジョークも自然と出る。日本語で理解し、発言したいからと通訳の助けも最小限にとどめ、インタビューの9割近く自ら日本語で通した。新聞社の入社試験の場面では漢字も書いた。

E 勉強は毎日4~6時間…来日会見のためにも練習しました。日本の歴史、文化を学び、明治神宮の井戸の近くのベンチに座り漢字を練習したのです。

撮影は20年3月にクランクインも、同4月にコロナ禍を受けた最初の緊急事態宣言による半年の中断を経て昨年6月まで行われた。エルゴートも日本で生活し、メディアに同行し、記者の仕事そのものも学んだ。

E マイケル・マン監督から「本当の合気道を日本語で学んだ方がいい」と言われ合気道の稽古もしました。全然、日本語を話せず、とても大変だった。週末だけですけど赤羽のアパートに泊まりました。シャワーもお風呂もなく銭湯に行き、日本語はうまくなかったけれど日本の人と話しました。(原案の本を書いた)ジェイク本人に会い、日本の記者に話を聞き、実際の取材にも同行して記事を書くまでを取材しました。

最大の助けになったのが、実家に招くなど日本社会を実地で体験させてくれた伊藤だ。伊藤は日本の社会に全身で飛び込んだエルゴートの役作りを称賛した。

伊藤 積極的に日本の古い時代劇を見て、監督も僕以上に詳しい。90年代にはやった日本のゲーム機を買って家で「マリオカート」をやったり、日本の文化から全部、学んで役に反映させたい強い気持ちが伝わってきた。なので、サウナや普通のご飯屋さんに行き、実家に来てもらって日本の普通のお正月も過ごした。ホームシックもあったと思うし、お父さんが高齢でパンデミックで会えなくなるかも知れなかったけれど、おくびにも出さず、役をやり切る姿に感動しました。

エルゴートは日本の作品への出演に意欲を持っていると明かした。

E もちろん。もし、英明さんと一緒だとしたら出たい。「(劇場版)きのう何食べた?」を見ました。あの映画、大好き。(伊藤に)一緒にやろう! 「ドライブ・マイ・カー」も好き。

米国と日本では製作規模が違うのが現実だが、そこは関係ないと言い切った。

E (出演した14年の映画)「ダイバージェント」のスケールは、すごい大きい。でも。米国にも時々、そんなにスケールの大きくない作品はある。「TOKYO VICE」の方がスケールは大きいですね。

エグゼクティブ・プロデューサーを兼任し、日本語を指導した渡辺謙(62)も「今後は全部、日本語で演じる可能性もあるくらい上達した」と評価するだけに、伊藤も後押しする。

伊藤 月9にアンセル…エルゴートとかって、面白い。すごいよね!!

ハリウッドスターが、日本のドラマに主役級でレギュラー出演…そんな前代未聞の挑戦をする日も、遠くないのかも知れない。

○…伊藤は3月に尊敬する故・津川雅彦さんが所属、経営したグランパパプロダクションに移籍後、公開される初の新作が憧れのマイケル・マン監督がエグゼクティブ・プロデューサーを務め、オーディションを勝ち取った今作となった。「大きな夢を持って向き合えば、こういうご褒美がもらえる。宝物になったんですが、一生の宝物にならないよう努力し感動を与えられる作品に出たい」と誓った。

◆TOKYO VICE 日本の新聞社で社会部記者だったジェイク・エーデルスタイン氏が、09年に米国で出版したノンフィクション「-アメリカ人記者の警察回り体験記」が原案。米国の大学から上智大に転入したジェイクは、大手の明調新聞の入社試験を突破し外国人として初めて入社。社会部で警察回りをする中、事件現場に遭遇し取材した事実を書いたが、警察発表通りに書かず叱責(しっせき)される。独自取材を進める中、暗躍する刑事宮本(伊藤)に教えを請い歓楽街に同行し、さらに凄惨(せいさん)な現場に遭遇する。

◆アンセル・エルゴート 1994年3月14日、米ニューヨーク生まれ。父アーサーさんはファッション誌「Vogue」などで活躍の写真家、母グレテ・ホルビーさんは舞台演出家、兄ウォレンさんは映像作家、姉ソフィーさんは写真家と芸術一家に生まれる。9歳でバレエ、12歳で演技を学び始め、13年の米映画「キャリー」で映画デビュー。17年の主演映画「ベイビー・ドライバー」で米ゴールデングローブ賞主演男優賞にノミネート。