頼もしい背中が一段と大きく見えた。ソフトバンク・柳田悠岐外野手(33)が3日のオリックス戦(ペイペイ)で決勝の満塁弾を放ち、チームの連敗を4で止めた。球界屈指の右腕である相手エース・山本由伸投手(23)を粉砕する一撃は、シーズンを通してハイライトシーンとなり得るほどの価値あるものだった。

 今季から左胸に「C」マークの入ったユニホームを身にまとう。強力な師弟関係のある藤本博史監督(58)たっての要望に応える形で引き受けた主将。「C」マークを巡る舞台裏には、柳田らしい逸話があった。

「俺、Cいらないっすよ」。少なからず照れ隠しもあっただろう。1989年の福岡移転後、球団では秋山―小久保―内川に続く重責。チームの「象徴」であるゆえに、球団は目に見える形で示したかった。頼まれれば断れないのが柳田という男。折衝に当たった当事者は胸をなで下ろした。関係者はこう述懐する。

「飾らない男。振る舞いや背中で引っ張るポジションというのを理解しているから『いらない』と言うだろうなと、こちらも予想はしていた。腹をくくった以上、そんなのあろうが、なかろうが――の考え。『いらない』という一答に、軽い気持ちでつけるんもんじゃないという重責を担う覚悟を感じた」

 泥臭い進塁打でもいい、華やかな一発でもいい。窮地でチームを救える男になることを望んできた。結果と姿勢で示すリーダー像を体現している。かねてチームに厳しさを注入してきた選手会長の今宮はこう言う。「柳田さんがキャプテンだから大丈夫。あの人の背中を見て、みんなが付いていきますから」。

 ゴールデンウイークで多くの子供たちが見守る中、文字通りヒーローになった柳田。お立ち台では「神様ありがとう」とギータ語録もサク裂させ、等身大の姿でファンを喜ばせた。

 カッコつけない、偉ぶらない、手柄を主張しない男の左胸は、ひと際まぶしかった。