春ドラマも3話目が終わり、視聴率争いも一段落ついたころだろうか。

事前予想通り「元彼の遺言状」「未来への10カウント」「マイファミリー」あたりが10%以上をコンスタントに出している。

個人的には視聴率はもうひとつといったところだが、前回も紹介した「ナンバMG5」と「やんごとなき一族」を推したい。“いい意味”で深く考えることなく、どこか懐かしい雰囲気で楽しませてもらっている。どちらも漫画原作だが、デフォルメすることにちゅうちょすることなく、すがすがしい演出ではないかと思う。

あと、少し遅れて先日のGW中にはじまったNHKの「17才の帝国」。こちら、設定はさることながら映像のクオリティーと引き込まれる演出でNHKの本気度が感じられる作品になっている。アニメ作品が中心の脚本家・吉田玲子によるオリジナル作品、ドラマ業界に一石投じるかもしれない。今後に期待です。

キャストの話。前回「ナンバMG5」にふれたので、今回は「やんごとなき一族」を取りあげたい。主人公を演じるのは土屋太鳳、名実ともにトップクラスの若手女優。一般家庭から名家に嫁ぎ、家族間の争いや、男尊女卑の慣習などに立ち向かう役を演じるが、芯が強くて優しい、まさに適役といったところだろうか。

そして名家側には当主の石橋凌をはじめ、その母親の倍賞美津子などくせ者がそろう。中でも、最近コンスタントにドラマや映画に出演している松本若菜の(義妹の)土屋に対してのいじり芸?は毎回見ものである。今作でぜひともブレイクして欲しい。他にも、尾上松也、渡邉圭祐、松本妃代、馬場ふみかと人気若手俳優たちがズラリと並ぶ。

そこで今回取り上げるのは、土屋演じる篠原佐都の夫であり、名家・深山家の次男・健太を演じる松下洸平(35)。シンガー・ソングライターとしてデビューした後、演劇での新人賞をきっかけに、朝ドラ「スカーレット」で一躍有名に。同じく朝ドラでブレイクしたディーン・フジオカや中村倫也の系譜だろうか。現在35歳、遅咲きといえば遅咲きである。

落ち着いた雰囲気に心地よい低音ボイス、塩顔といっていいのかな、その柔和な姿は当然のブレイクと思わせるが、他にもいい俳優はたくさんいる。その中で、彼がなぜブレイクしたのか。それは共演者を立てる絶妙なポジショニングだと考察する。恒例のサッカーに例えると、ストライカーを生かす2トップの1人といったところだろうか。

少し前だとRマドリード時代のC・ロナウドとベンゼマ(こちらのほう)、日本だと高原と柳沢、もちろん柳沢である。FWとして点を決めるだけではなく、ストライカーを立てるとともに、チームのことを考えて守備も積極的に行う。今回のドラマでは土屋太鳳を、朝ドラでは戸田恵梨香を、昨年話題になった「最愛」では吉高由里子と、ヒロインを立てる。その能力が高いのではないかと思う。 もちろんストライカー(主演)としての能力も存分にあるが、現時点では2トップの1人として注目すべきではないかと思う。ストライカーとして本格化する前に、今のポジションでまだまだ堪能しておきたい俳優さんです。(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画監督・谷健二の俳優研究所」)

◆谷健二(たに・けんじ)1976年(昭51)、京都府出身。大学でデザインを専攻後、映画の世界を夢見て上京。多数の自主映画に携わる。その後、広告代理店に勤め、約9年間自動車会社のウェブマーケティングを担当。14年に映画「リュウセイ」の監督を機にフリーとなる。映画以外にもCMやドラマ、舞台演出に映画本の出版など多岐にわたって活動中。また、カレー好きが高じて青山でカレー&バーも経営。2月17日からは東京・渋谷区文化総合センター大和田 伝承ホールで演出舞台「政見放送」が上演された。